第12話社会人には「嘘」が必要です。Part4
この町は一種のデートスポットとしては優秀で植物園以外にも、夏には海水浴が楽しめるビーチがあり、その少し先には観覧車付きのビルやアウトレットといったものがある。観光客集めの土地開発様々だ。
そして、俺たちは南國ヶ浜ビーチに移動した。
太陽が沈みかけてオレンジが溶け込んだ海と一定のリズムで刻む静かな潮騒は、どこか寂しげである。それは「日が沈む」という僅かな時間しかこの光景はできないからだろう。とても尊く美しく感じられる。
そんな時間を静かに見届けようと、腰を下ろした。
何処までも遠く広い水平線は、空と海の境界は曖昧だ。
それを眺める俺と彼女の距離は、繋いだ手が何時しか離れて、その数センチが埋められずにいる。
「…終わっちゃいますね。」
水平線へと太陽が隠れるギリギリのところで、彼女は沈黙を破った。
その顔は、どこか悲しそうに見える。
「そうだな。」
「…。」
多分、エンドロールはすぐそこにある。
彼女が自分の気持ちを素直に一言でも、誰かに伝えることが出来たら、それは大きなキッカケになる。
俺はその第1歩を作ってやればいい。
今日で決める。
この一言で、もし駄目なら今日は諦めるしかない。
「楽しかったか?」
「……。」
長い沈黙がやってくる。
彼女のエメラルド色の瞳が、俺を直視する。いつしか彼女の手は苦しそうに胸の前で握りしめている。
俺はこの時間を見守り続けるしかない。
彼女の決心と俺への応えは、唐突に終わりがくる。
「…どうして?私なんですか?」
「えっ。」
俺が驚いたのは、ダメだったのか良かったのか分からなかったからとか、質問を質問で返されたからとか、そういう理由じゃない。
彼女が
彼女、
しかし、彼女のそれは補足でしかないはずだ。
今回の質問は、彼女にとって大きな選択だった気もする。
彼女の質問の意図は普通の女の子であれば、たった一言言えば解決してしまうことだ。
完全に言葉につまった。だから、これに対して俺は偽ったり、ましてや沈黙なんてしてはいけない。
それは彼女に失礼だ。もう、全て正直に話そう。
「…アリス、実は―――。」
「実は?」
あれ?上手く言葉が出ない。喉を誰かに締め上げられているような感覚だ。
「…ゼェゼェ、そういう事かよ。」
誰かに俺が置かれてる状況を説明しようとしたらこうなるってことね。対策はバッチリってことだ。
「…優斗?」
心配そうに見ている彼女が俺に手を伸ばそうか迷って、その行き場を失っている。俺は心配かけまいとその手を握った。
「大丈夫だ。もう遅いから帰ろうぜ。」
「…うん。」
失敗した。完全に俺のミスだ。
きっと、彼女に嘘でも一言言えばあの手紙のことはクリアしていた。
でも、そんな偽りの関係になんの意味があるっていうんだ。
聞こえてくるのは、全くリズムの合わない2人の足音と波音。その音も静かでどこか悲しい。
そして、俺は悟ってしまったのだ。
―――その問いに、答えられることはもうないのだと。
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