第9話社会人には「嘘」が必要です。Part1

 土曜日、天気も晴れて、さくらの木々は枝に新しく緑が足され、まだ半袖には早い季節ではあるが十分に暖かいと感じる。絶好のデート日和びよりだと言えるだろう。

 俺は約束を取り付けた時間よりも少し早く待ち合わせの東國ヶ丘ひがしくにがおか駅こと東丘とうおか駅のシンボルである銀時計前に着いていた。

 この時代で初デートということで、シンプルな襟のある青色のアウターの中に、ワンポイントある白Tシャツと黒のスキニーパンツという清潔感のある服装を心掛けた。今も高校生だけど、当時の俺はそういう気遣いは全くなかったな、デートには制服で来てたし、寝ぐせまで付けていた気がする…。

 しかし、今ととでは出逢いも違えば関係性も違うから仕方ないといえば仕方ない。でも、もうちょっと気遣えよ俺。

 そんなことを考えていると、約束の時間となった。

「時間ピッタリだな。」

「優斗がその時間に来いと言ってたから。」

 そこには、困惑の表情を浮かべた彼女がいた。

 今日の彼女はホワイトのブラウスに大きめのベルトの付いた彼女の瞳と同じエメラルドの膝丈スカートで、肩には革製のポシェットをかけている。綺麗なブロンドヘアーはツインテールに結ばれいて、その姿は、さながら英国のお嬢様のようだ。

 デートには十分過ぎるほど気合十分と言えるだろう。

 可愛すぎるぅうううう。(こんな可愛い子なのに、当時の俺、酷い時にはジャージとかで会ってたの??軽く死ねる。)

 俺は赤面しつつも、そんな可愛い彼女の手をちょっと強引に繋ぐ。

「行くぞ。」

「どこへ?」

 その問いには応えずに、電車に乗り目的地に向かう。

「今日の目的地はここだ!」

 目の前には『不思議な花がいっぱい南國ヶ浜みなみくにがはま植物園』とデカデカと書かれた古びた看板がかけられているゲートがある。

「ここ。」

「そうだよ。」

 彼女の目が一瞬、宝石が光を反射し輝くように、きらきらと綺麗に輝いて見えた。

 まあ、外すはずもない。彼女とは何度もここには来ていた。ここ以外にも映画、水族館、ゲームセンター、アミューズメント施設など行ったが植物園ここが一番反応が良かったし、色々なことがあった。(…もう、昔の話だが。)

「すみません、おとっ…学生2枚下さい。」

「学生さん、お2人ですね。1000円です。」

「はい、1000円。」

「ありがとうございます。楽しんで来てください!」

「ははっ…ありがとうございます。」

 微笑ましいものを見る顔で受付に見送られながら園内に入る。…妙に背中がむず痒い。

「お金返すね。」

 そう言うとポシェットに手を伸ばす。

「俺は受け取らない。誘ったのは俺なんだ、これぐらい気にするな。」

「そう。」

 彼女に、やんわり断ったりはしてはいけない。例えば「俺が誘ったから。」で一般のカップルでは伝わる。けれど彼女にはそれが伝わらないのだから、今はしょうがない。

「あっ、ツツジ。」

 花壇一面に咲くツツジがあった。その光景は白と赤が綺麗に交じり、全体で淡いピンク色をしていて、第二の桜を見ているような気持ちにさせた。

 彼女は遠慮がちではあったが、少し立ち止まる。そして、また俺の手に釣られて歩き出す。

 それに気づいて俺も立ち止まる。

「これは見事だな。あの花が好きなのか、見てみるか?」

「…。」

 彼女は決断しない。俺は小さくため息をつく。

「少し、じっくり見てみよう。俺に花について教えてくれ。」

「うん。」

 そうすると、ツツジに駆け寄り膝を曲げて、じっくりと見る。

「…ツツジ。丁度この時期に見頃を迎える花。花びらの下から蜜が吸える。」

「随分と詳しいな。子どもの頃、俺もこの花の蜜を吸って「毒があるから、やめなさい。」と母に叱られたなあ。」

「この花に毒はない。ヤマツツジっていう種類にはあるの。でも、子どもには見分けが付きにくいかもしれない。」

「なるほど。ツツジ自体に今も違いが分からない俺からすれば、子供のときに禁止されて死なずに済んだって訳だな。」

「そうだね。」

 彼女の瞳は少し温もりを感じさせる。それに年甲斐もなく、ドキッとして顔がほころぶ。

 彼女、逢峰アリスは。何が好きとか何が嫌いとかは、分かりにくいだけで沢山ある。

 だから、こちらから引き出してやればいい。話しやすい環境を彼女に作ってあげればいいのだ。そうすれば、自分自身で何かを決断することができるだろう。

 これが、何年もかけて、傷つけ合って手に入れた産物だ。

 そういう意味では、このゼロスタートの彼氏面かれしづらから始まる関係はチートレベルと言えるだろう。

 これも手紙のクリアの為だ仕方ない。

「次は、ドームの方行ってみよう。季節関係なく四季折々の花が見れるらしいぞ。」

「うん。」

 しゃがんでいる彼女に手を差し伸べる。

 彼女は少し躊躇ためらった後、その手をとる。

 立ち上がるとき、手から彼女の肌の暖かさと重みを感じる。それは、あの出逢いの日よりも熱いぐらいに体温を感じさせ、背負った時よりも重い。

 その重さは、なのかもしれない。

 溢れそうになった感情を抑える為に、彼女の手を強く握り締める。

「そう言えば、ツツジの花言葉はなんて言うんだ?」

「赤が「恋の喜び」。白が「初恋」。」

「ピッタリだな。」

「何に?」

「今日の俺に。」

「…そう。」

 彼女の少し赤く染った顔を見て、高校生に戻るのも悪くないと本気で思った。

 これが本当に初めてだったら、高校生の俺は、今の俺はどれほど幸せだっただろうか。

 俺と彼女との会話に、俺の

 全部が嘘でまがい物に過ぎない。

 ―――けれど、せめて彼女にはをプレゼントしよう。

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