第3話 柊 優香という彼女。
柊 優香は俺、柊 優斗の血の繋がった2つ離れた唯一の妹である。
彼女は公立 東國ヶ丘中学校の3年生であり、引きこもり真っ最中である。
2005年夏。残暑厳しいジトジトとした暑さの中、二学期が始まった直後、青春の1ページとも言える学校生活は半年をもって幕を閉じることになった。
そして、2008年1月1日をもって彼女の人生にも幕が下りることになる。
自殺だった。
原因は、学校でのいじめにあったそうだ。上靴がボロボロになって隠されるのは日常で、カバンは画鋲が入っていて、弁当の中身はグズグズになっていたそうだ。
そんな精神的に追いやられ、不登校になった。
いじめられていることは家族全員、教師陣も分かってはいただろう。
教師陣は徹底的に無視を貫いた。
俺は、何かしら助けたいとは思いつつ自分ではどうしようもなく目を背けていた。
両親は声を上げて学校へ怒鳴り込みに行くこともしなかったし「学校には行きたい時に行けばいい」というスタンスで真面目に取り合わなかった。放任主義と言えば聞こえはいいが、子供に対して無干渉であったことも事実だ。
しかし、ごく自然のことだが、自分の子供が亡くなって平気な顔をする親などはいない。(と信じたい。)
ロープに垂れ下がった亡骸の下に置いてあった遺書をもとに学校側に裁判を起こしたりもした。
そんなやり取りをしても彼女は帰ってこない。
その事実に、家庭は真綿で首を絞めるようにジワジワと殺されたのだ。
家に対して、居心地の悪さを感じた俺は高校を卒業した次の日に家を飛び出した。だけど、本当に居心地が悪かったのは自分自身だったのだ。
彼女が必死に助けを求めていたのを知っていて、見て見ぬふりをしたあの夏。
彼女が遺書に書かれていた最後の一行。
「自分の人生を歪めた人間達が幸せになるのは許せない。この死で地獄に一緒に堕ちてもらう。」
その『人間達』に自分が入っているようで、自分が妹を殺してしまったようで凄く恐ろしい。
だから俺はあの場所から物理的距離において離れたかった。
でも、お兄ちゃんは一度だって妹を救えなかった日を後悔しなかったことはない。
―――俺の未来を全部投げ打ってでも、必ず救ってみせるから。
俺は、壁に向かって固く決心した。
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