第2話社会人には「状況把握能力」が必要です。
目が覚めると、そこは…異世界だったり人が入れ替わっていたり、体が縮んでしまったりすることは聞いたことがあるが、俺の場合は目が覚めると過去だったようだ。
そのことを理解するのはそう時間を要することではない。
横になった身体から見た天井は、いつもの薄汚れたものではなく、真っ白な天井。
それに驚き、軽快に飛び起きる。身体がいつもよりも軽い。
辺りを見回せば、学生時代に見慣れた開きっぱなしになった教科書が乗る机、割と小綺麗にされている本棚、いつも使わないためかカバーに埃が積もっている全身鏡が部屋の隅に追いやられている。
そして、懐かしい思春期男子特有の臭さが鼻をくすぐる。
今起きていることに疑念を抱きつつ、机の方へとてとてと歩く。
そこに視線を落とせば疑念も確信へと変わっていく。
「2年B組 名前
俺の名前である。
より確信へと近づくために、俺は洗面所にその足で向かった。
映し出された自分の顔は死んだ目はしているものの、随分と若い顔を象っていた。
一応、この期に及んで夢であると仮定して、蛇口を捻り、何度もバシャバシャと顔を洗う。その行為の後に、もう一度鏡を見れば諦めも着いたというものだ。
そういうある意味ストーリーではお決まりのネタをかますと同時に、自分に冷静さを取り戻していく。
流石、三十路を迎えたおっさんは乗り越えた場数が違うというものである。勿論、想定外のアクシデントであることに違いはない。
このような問題が起こった際に最も重要なのは状況把握だ。これ社会の常識。
顔を洗ったついでに歯を磨き、自室へと戻る。
再度、詳しく見回せば多くの情報が散りばめられているが、枕元に置いてあるガラケーが目に入る。
それを開けば、今一番欲しい情報が提示された。
『2007年5月10日木曜日午前6時』
なるほど。月は違うが、俺が13年前にいることは間違いないようだ。
つまり、17歳の高校2年生だ。身体も軽いはずだ。
深くため息を吐いて、ゆっくりとガラケーを閉じる。
こういう状況下での、最も多いケースは「夢オチ」だ。先の同窓会でノスタルジックな気分になったためにこんな夢を見るんだろうし、その場合は大して問題じゃない。
次に考えられるSF的なケースとしては「実際に過去へ飛んでいる」だ。飛んでいるにせよ、飛ばされているにせよ、これは非常にまずい。このまま、17歳からやり直すだけなら多少の問題は何とかなるかもしれないが、次にまた13年後へと飛ばされるか分からない。そうなれば必然的に、ここで行った事が未来へと影響を受けかねない。なるべく、穏便に過去の自分と同じように振る舞うのが重要になってくる。
そうなると誰かに相談するのすら、未来へと影響すると感じて、はばかられる。
俺は、顎に手を当てながら隣の部屋がある方向へと首が反射的に動く。
妹、
それは気持ちの問題と知りつつ、俺はすぐに視線を床に落とす。
しばしの間、熟考し1つの答えにたどり着くと、深く深呼吸するようにため息を吐くと独り言のように呟く。
―――学校へ行こう。
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