【NL】メイド長とお坊ちゃま
コウサカチヅル
本編
「……」
……どうしよう、気づかないふりをして
私、
「あっ、吉岡はろー」
えええ。ふつーに話しかけてきた。
「お坊ちゃま、なにをしていらっしゃるのですか……?」
「カレンダーを
「はい、それはわかるのですが。質問を明確化します。なぜこんな狂気じみたことを?」
「いやぁ、日々が過ぎるのがうれしすぎるんだよね! ばいばい
「過去をそこまで憎まなくても……」
「ふふ、楽しみだなぁ。あと一年で、きみと結婚できるんだね♡」
「…………は?」
「えっ、だーかーらー。あと一年で吉岡と結婚……」
「ちょいとお待ちを!!」
頭の中に、いくつもの『?』が
……いけないいけない、名家と名高い
私はこほん、と咳払いし、なんとかいつものクールな調子で告げた。
「お坊ちゃま、どうして私とそのような事態を想定されているのですか?」
「約束したじゃない」
「やく、そく……??」
「ほら、十一年前の三月二十一日の午後三時十六分、『けっこんしてー』って言ったら『お坊ちゃまにプロポーズいただけるなんて光栄です』って。あのとき吉岡がつけていた
「いや細かい!!」
そのバレッタ、まずは形から上品なメイドを目指してみようと、ちょっと奮発して買ったものだ。初のお
「吉岡との思い出は全部、脳内で4K画質再生余裕だよ?」
「いや天才~!!」
うっかり素のトーンで
私はん゛ん゛ん゛ッ、っと今度は強めに咳払いをしてみせて、つんとすましながら
「しかしこの結婚は身分差もございますし、到底認められるものでは――」
「なに言っているの? 両親はもう
「黒い黒い黒い!!」
真顔真顔真顔! すっごい厳格な奥様と旦那様なのに、一体どうやって!?
「
「いやいや年齢差もえらいことでしてね」
「重要なのはどんな年代のひとと添い遂げるかより、だれと添い遂げるかじゃない?」
「哲学者〜!!」
た、
「久しぶりに見せてくれたね、『本当』の吉岡を」
「え」
「ぼくが成長するにつれて笑ってくれなくなったから」
「そ、れは……」
勤めはじめたとき、私は高校生だった。
幼いころ父が事故で他界し、もともと生活は苦しかったから。アルバイトが可能な年齢になったら
たまたまこのお屋敷の求人広告を見つけて、そこからは必死だった。
屋敷内で派閥争いや、いじめのようなものがなかったとは言わない。
人間ってこんなに
(でも嫌がらせ関連、いつの間にかぱたっとなくなったんだよな……。人間不信を刻むのには充分だったけど)
ふと考えを巡らせながらお坊ちゃまのほうを
「ぼくはいつだってしずくを守るし、それはこれからも変わらないよ?」
「っ、」
まさか。
いつの間にか私を『しずく』と名で呼ぶようになったその青年は、じりじりと迫ってくる。
「ね、しずく。重要なのは愛しているか愛していないかだよ。今はぼくのこと、全然意識していなかったかもしれない。でも……」
うっそりと、彰様は笑った。
「これから、
「――なんで」
「え、」
「どうして、私なんですか。私、なにもしていないです。お坊ちゃまに好かれるきっかけなんて、なにも……」
「……ふふ。初めから、
んん? より雲行きが怪しくなってきたぞ?? これ耳塞いだほうがいいやつかなと思うのに、彼の
「『あ、ぼく、この
……うっっっとり言われましても~~。
――一年後、このあざとすぎるヤンデレにずるずると
【終】
【NL】メイド長とお坊ちゃま コウサカチヅル @MEL-TUNE
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