第三十三話 アメリカの日は沈む

 アラスカに建てられた航空基地から500機にも及ぶ零戦が離陸する。彼らの乗る零戦は大口径30mm機関砲と対地ロケット(噴進砲)を搭載し、近接航空支援機体に改装された特殊仕様であり、それに乗るパイロットもCAS専用に訓練された精鋭兵であった。

 そして離陸した彼らの後ろには六式重爆富嶽が追随し、次の攻撃目標であるロッキー山脈東部の麓の軍事キャンプを目指していた。


 CAS零戦隊の内の一個中隊とその後ろの爆撃隊が編隊から外れ、敵軍事拠点目掛けて爆撃を敢行する。バラバラと爆弾槽から爆弾をばら撒き敵陣を崩壊させる富嶽に対地ロケットを発射し、地上にある対地兵装を破壊する零戦。彼らは撃墜を恐れず低空飛行し機関砲を装甲車両や兵士に向け掃射する。地面は一瞬にして炎に包まれ、血の湖ができた。


 そして、この爆撃陽動作戦が成功したとの一報が入った時、ロッキー山脈西部の麓にいた日本軍が一気に攻勢を開始する。


 南部の平野から再度機甲師団が進撃し、山麓軍事拠点を裏側から包囲する。そして歩兵たちは山頂を越え、山麓へと向かう。


「ゆき〜のしんぐんこおりをふんで〜ど〜れがかわやらみちさえしえれず〜ぅ...」


 行軍中のひとりが小さな声で雪の進軍を口ずさむ。


「さっきから何を言っているんだ?そんなに小さな声で」


 どうやらよほど気になったようで口ずさむ彼の横の兵士が彼に聞く。


「あ、ああ。歌っているんです。雪の進軍を。雪の進軍ってまさにこんな状況ですよね。」


 少し笑いながら彼は質問主に返答をした。すると、質問をした兵士は、


「歌うなら、そんな小声じゃなくてもっと大きな声で歌うべきだぞ!」


 そう言って大声で歌い始める。そんな彼の歌声は勇ましく、力強い声だった。そして、彼の歌に続く形で周りの歩兵たちが歌い始める。それに加わるように初めに歌っていた兵も歌い始める。


「雪の進軍氷を踏んで

 どれが川やら道さえ知れず

 馬は斃れる捨てても置けず

 ここは何処ぞ皆敵の国

 儘よ大胆一服やれば

 頼み少なや煙草が二本

 ...

 命捧げて出てきた身故

 死ぬる覚悟で吶喊すれど

 武運拙く討ち死にせねば

 義理に絡めた恤兵真綿

 そろりそろりと頸締め掛かる

 どうせ生きては還らぬ積り 」


 そして麓におりた彼らは詩の通り死する覚悟で敵陣へと吶喊して行った。


 左右両翼空の包囲によって100万対200万という圧倒的兵力差の中抵抗する敵軍を各個撃破。司令部に突入した日本兵らによって残ったこの戦闘区域にいる米軍たちに武装解除と投降を求めた。

 彼らはもうこれ以上の抵抗は無理なのだろうと武装を解除し、日本軍に降伏した。一部抗戦を続ける者もいたが、彼らはすぐに駆けつけた増援たちによって撃滅された。


 そしてこの攻勢によって米軍のほぼ全ての部隊を失ったアメリカ世論は戦意を完全に失い、政府に講和を要請するデモが発生した。


「We Want Peace.」


この言葉を掲げて。


 そして彼らの民意を受けいれた合衆国政府は1947年12月1日にハリー・トルーマン直々の停戦要求にて日本との停戦交渉が開始。そして翌12月8日に連合国と日本の休戦条約が締結。ここに一度、10年も続いた大東亜戦争は終結した。


休戦条約が締結された12月8日、それは奇しくも太平洋戦争開戦の初陣となった真珠湾攻撃の日であった。



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