第二十九話 最後の艦隊決戦

 米本土空襲に成功し、米本土上陸作戦の立案が完了した。


 現在、日本は太平洋の圧倒的優勢を確保しており米本土爆撃も断続的に行っていた。しかし依然としてアメリカ世論を動かすには力不足であり、講和へ持ち込むには敵本土を叩きに叩く必要があるだろう。

 そして、この上陸作戦における最大の障壁における最大の障壁はアメリカ太平洋艦隊の存在である。

 彼らはハワイでの決戦を避けているためにかなりの数の艦艇を保有しているはずだ。諜報部からの情報では空母九隻、戦艦十隻を中心とし、巡洋二十四隻、駆逐五十隻からなる大艦隊を保有している。

 帝国海軍は二カ月前に進水式を終えた新型空母、鳳凰と富士を合わせて六隻。戦艦の数も考慮するとその差は1.5倍である。この差をどう埋めるかが最大の鍵である。

 その艦艇の差は五十六君の天才的な技量に懸かっている。

 最初に太平洋艦隊と決戦をするにあたって、彼らは太平洋側の本土沿岸を巡航しており、軍港の位置関係ではわが軍の方が圧倒的に不利であり、近場に大きな港を要するであろう。そのために先にアラスカを制圧しておいた。

 このために訓練された落下傘部隊がアンカレッジに空挺降下。そして同地域の軍事地域を確保した。カナダへの攻勢も一時は考案されたが国境部には既に米軍が展開しており幾度か攻撃を行ったものの、成果は芳しくなかった。しかし一方でアラスカの全地域を制圧した。これによってアメリカの目と鼻の先に橋頭保を築いたこととなる。

 そしてこのアンカレッジを拠点に北太平洋に進出してきた太平洋艦隊と決戦を試みる。勝率は五分五分ではある。海軍戦力では劣っているが大和型戦艦も健在であり、アラスカ、ハワイからの航空支援も期待できる。それに何より練度の差が戦いを有利に持ち込むだろう。攻撃には三倍の戦力を準備しろという。かなりの工業力を海軍に注いできたがそれでも最後まで数で劣っていた。

 陸戦に関しては既に本土以外の防衛兵力は現地部隊が補っており、米国本土上陸作戦のために120万の兵力を準備した。その上陸部隊はアラスカ、ミッドウェイ、ハワイから同時に出航し、ロサンゼルスからシアトルにかけてのアメリカ沿岸部一帯に上陸する。スパイの情報によると米軍戦力が欧州から帰還し、総勢217師団が米本土で待機している。徹底的な抗戦が予想される。そこで旧式化した零戦をCAS近接航空支援機に改造した機やその他爆撃機たちを動員し無理やり突破する方法が無難であるが、多かれ少なかれ被害が予測された。

 そして突破後は各部隊と合流しながら前進。ここで障壁となるのはアメリカを南北に貫くロッキー山脈。そこに活用されるのが、新開発された七式中戦車。ソ連のIS-3、オーストラリアで鹵獲したセンチュリオン7/1をベースに作成した戦車である。強固な装甲と被弾経始を考慮した椀型砲塔に傾斜がかった車体装甲を持つその戦車はパーシングに正面から対峙できるその車両を超大量に準備し、これをもとに十二師団の戦車部隊を編成した。

 沿岸部制圧後ロサンゼルスにこの部隊を派遣し、山岳の低地、インフラが整備された地域を利用して猛進。南西部の山岳地域を包囲させる。これによって西側の防衛戦は崩壊するだろう。そして、その混乱に乗じて講和条件を米国にたたきつけるという理想的な作戦だ。

 この作戦で重要になってくるのはどれほど米国に衝撃を与えるか。敵の進軍は抑えられず、このままだと国家は滅亡すると国民に信じ込ませる。帝国軍は振り返らず進撃せよと命令した。そして、その先には新しい日本が待っているから。



 そして、作戦開始の令を受けた聯合艦隊がアンカレッジから出航。目標は米国太平洋艦隊の撃滅。帝国軍は今まさに敵の本拠に刀を差し込もうとしていた。


19479月23日、聯合艦隊は北西太平洋上において米国太平洋艦隊を補足した。


「Z旗が上がったぞ!」


「決戦じゃ!」


聯合艦隊旗艦「大和」のマストにZ旗が翻ると将兵は皆が気勢を上げる。Z旗は明治の日露戦争における海の決戦である日本海海戦で連合艦隊の旗艦「三笠」に掲げられて以来、大東亜戦争の海戦初戦闘である真珠湾攻撃での空母「赤城」など日本海軍の決戦では度々掲げられた旗だ。


 そして今再びZ旗が揚がるのは北西太平洋である。挑む決戦はアメリカ太平洋側沿岸を巡航する米海軍主力艦隊である太平洋艦隊である。


 「とうとう来たのか...」


Z旗を掲げる第一艦隊の前衛部隊を率いる山口多聞中将は後方の主力艦隊にZ旗が上がったという一報を聞いて、そうつぶやき、瞑目する。そして、


「至急、二航戦から艦載機隊を出撃させろ。敵艦隊に打撃を与える」


そう命じた。


 ここに空母総勢15隻、戦艦16隻が参加する人類史上最初で最後の大海戦が勃発した。


 二航戦から艦載機が発艦したとの報を受けた山本は主力部隊の一航戦から艦戦艦爆艦攻を発艦させる。それらは敵の対空砲火の網をすいすいと潜り抜け敵空母に猛攻を仕掛ける。

 洋上には1000機もの艦載機が入り乱れて戦闘し、まさに地獄の様相になっていた。日本の航空隊は被害を出しながらも敵航空隊を半ば強引に撃破。敵空母艦隊に向け爆撃と雷撃を敢行した。

 太平洋艦隊前衛部隊を担っていたエセックス級空母「Wasp」と「Hancock」が惑星のロケット砲と爆弾による飽和攻撃によって甲板を貫通。弾薬庫と艦載機燃料に引火したことによって中から火を噴いた。そしてその二隻はずんずんと海の中に引きずり込まれ、沈没した。

 アラスカからの雷撃転換型六式重爆富嶽や四式重爆飛龍による航空支援もあり、駆逐艦20隻や軽巡洋艦9隻を轟沈させ、陸上機の特徴である大きな爆弾槽という利点を生かした雷撃の有効性が証明された。

 しかし、ここで日本軍側に悲劇が起きる。敵戦艦「Washington」の発射した砲弾が偶然にも空母「大鵬」に命中。弾薬庫に誘引し、そのまま炎上爆発。浸水を起こし、大炎上しながら轟沈した。

 

 両軍ともに一度撤退し再出撃。第二次北西太平洋海戦が勃発。

この海戦では異常な事態が発生した。昨日艦爆隊による攻撃でいくらかの被害を受けた「Wisconsin」、「New Jersey」などその他数隻の戦艦が特攻を仕掛けてきたのだ。「Wisconsin」「New Jersey」を先頭とした戦艦隊の突撃に艦載帰隊を出撃させたが、一歩間に合わず集中攻撃を受けた空母「富士」はあえなく沈没した。100機以上の損失を出しながらも先頭の戦艦二隻を撃沈。後方にいた特攻戦艦三隻も大和や紀伊を中心とした戦艦隊の砲撃によって撃沈させられた。


 敵の防護用戦艦を失った米海軍に帝国海軍が大反撃を敢行する。敵空母に対し航空隊で猛攻を開始。特に銀河、惑星によって構成された雷撃機隊の活躍が目を見張り、空母2、重巡3隻の撃沈に成功した。両軍はまたもや撤退し再補給。両者とも被害は甚大だったものの、今度こそ敵艦隊を撃滅するぞと再出撃。


 ここでついに3度目の北西太平洋海戦が勃発した。これが最後の海戦と噛み締めて日本艦隊から残存するすべての航空機が出撃した。敵の特攻を回避するべく戦艦に目標を絞る。しかし米艦載機の奮闘によってまたしても弾薬庫に爆弾が誘爆。隼鷹が撃沈された。だがここで大和武蔵を主軸とした攻撃隊とアラスカからの航空支援によって射程圏内に入るたびに撃てる限り撃ち続けた。

 最初に富嶽の航空支援によって敵空母2隻が航行不能に。それを大和の砲弾が後追いし船体を真っ二つに割って轟沈させた。大和と武蔵は敵に魚雷を数発受けたものの何食わぬ顔で射撃を続けた。この砲撃で敵戦艦3隻を航行不能状態に、そして3隻を撃沈した。その後富嶽と艦爆隊、雷撃隊や戦艦隊の集中砲火によって残りの空母2隻を木端微塵に粉砕。残った駆逐艦や軽巡洋艦は撤退し、そこには傷だらけの聯合艦隊の下、太平洋上の旗艦大和のマストには、とてつもなく大きい旭日旗が掲げられた。

 その旭日旗は海上の風に吹かれ、水平線上に沈みゆく夕日に照らされ、靡いていた。

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