第二十八話 爆撃機、富嶽

-富嶽


 それは大日本帝国合同参謀兵器開発課航空設計局が開発したB-29を超える超大型爆撃機の名称である。富士山の名を冠すその巨体は全幅が約63メートル。これは三式戦闘機「飛燕」を横に五機並列させてもなお達しない程の幅である。そのとてつもなく長い主翼には六発の中島製ハ54を搭載し、高度一万メートル地点において780Km/hを突破した。そしてその巨体には大型の燃料タンクが備えられ、一万九千㎞の飛行を可能にした。

 武装は後部銃座、上方斜銃、側部銃座に20ミリ機関砲を計四門。機首には八八式七糎野戦高射砲を航空機用に改造したホ501を搭載した。

 富嶽は四式重爆撃機「飛龍」と「キ109」の設計を踏襲し、機首の75粍砲はキ109の設計の名残であった。

 発動機に搭載されたプロペラには二重反転機構が備えられており、それらの直径は約5メートル。全金属製で、防弾版などの搭乗員防衛用装備も充実していた。

 富嶽の巨体の中にある爆弾槽は九五式軽戦車や九七式中戦車、しまいには五式中戦車までもを優に積み込めるほどの大きさであり、搭載できる爆弾の総重量は20tにも及んだ。雷撃仕様機になるとニ十本の航空魚雷を搭載することが可能だった。

 中川良夫なかがわ よしおら主導で立川合同参謀兵器開発課航空技術研究所にて研究開発されたこの機体はハワイ上陸作戦立案中であった1946年9月に六式重爆撃機「富嶽」として正式採用された。


 そして、日本の爆撃機開発の粋を集めたこの化物兵器がハワイ島に到着した。


 到着した重爆隊は点検、再武装しアメリカ西海岸の都市、ロサンゼルス、サンフランシスコに向けて離陸した。

 直庵機を500機つけた150機の重爆隊は航行中に航路を分岐させ、75機ずつに、500機の護衛機隊は250機づつに分割され、攻撃目標へと飛行していった。


~Los Angeles United States~


「日本が来てるっていうのに町の人間は対独戦勝ムードでお祭り騒ぎだ。」


レーダー監視員が溜息をつきながら小言を漏らす。


「そういうなよ。実際勝ったのだから喜んでもいいだろう。しかもまだ町の人間は安全だと信じ込んでいる。」


コーヒーカップ片手に書類に目を通す左遷組の情報将校が監視員の小言に返す。


「ハワイが陥落したのにな。奴らは次はここを狙いに来る。俺らの首を"Japanese Katana日本刀"で切り落としに来る。」


「そんなに日本が怖いのなら東海岸に行けよ。あっちは日本が猛攻撃してきてるなんて知らないはずだぜ?」


「おいちょっと待て!」


返答し、コーヒーを啜る情報将校の手が止まる。


「画面を見ろ!これ、ジャップの爆撃機じゃないか⁉しかも大型機だ!」


「嘘だろ⁉ここはハワイから4000キロ近く離れれるんだ!日本がそんな航空機持っているはずがない!」


レーダーを監視していた二人が大パニックを起こす。


「持ってるはずがないって?でも実際にこっちに来てるんだ!しかも百機近く!」


「すぐに空襲警報を出すんだ!」


監視員は近くにある電話を取って


「こちらロサンゼルスレーダー局!ジャップの爆撃機を補足した!至急空襲警報を出せ!」


~富嶽 機内~

ロサンゼルスを目標に航行している富嶽の中ではつかの間の休息といったような雰囲気で、航空兵が談笑していた。


「空から見たロサンゼルスって、どんな景色なんだろうな。」


操縦手がそう問う。


「さあ。見なければわからないんじゃないか?」


「それもそうだな。観測手、カメラがあるなら写真を撮っておいてくれ。」


「ああ。わかった。」


操縦手と機銃手の会話に巻き込まれた観測手が言葉にならない返事を返す。


「お、そろそろだぞ。総員、気を引き締めて作戦に臨め!」


「了解!」


操縦手の言葉に、全員が呼応した。


 そして...


 爆撃目標の都市に照準を合わせ、あと少しで爆撃隊はロサンゼルス中心部に到達しようとしていた。

 そして爆撃隊が中心部に差し掛かった時、百キロ爆弾を満載した爆弾槽がゆっくりと開いた。そして…


「爆弾投下用意。5…4…3…2…1──投下!」


その瞬間、富嶽の下部から大量の五十キロ爆弾が次々に落下し、爆弾特有の風切り音をたてながら機体から空に放たれた。


 ドンドンと爆弾の爆発音が響き渡り、町の至る所で炎が上がる。


ついに成功した。長年夢見たアメリカ本土空襲が。


 そして爆撃を受けたロサンゼルスの街は崩壊状態だった。ビルは崩れ、道の舗装が捲れ剥がれ、車やバスが炎上し、黒焦げになっていた。情報統制によって日本軍の快進撃も知らなかっただろうから、腰が抜けるほど驚き、アメリカ全土が恐怖の渦に巻かれた。

 もちろん敵軍事基地の破壊も目的ではあるが、本当の目標はアメリカ国民を驚かせ、そして怯えさせ、有権者たちを脅し、講和会議の場に引きずり出そうというもの。

 米軍の対空砲火や航空機では届かぬ高度に陣取った爆撃機隊はレーダー施設や湾岸にも爆弾の雨をお見舞いした。しかもそれを断続的に。


 米本土爆撃に成功したという吉報を受けた合同参謀本部は米本土上陸計画の立案中であり、その一報が入った途端立案作業の速度が急速に向上した。そして、対ソ戦線側の作戦も立案が開始された。





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