皇國最期の反抗

第二十四話 皇国の光、輝かせ

 満蒙防衛戦闘とソ連侵攻から数カ月の膠着機関が続き、春の温かさが感じられる4月になった。本土では4月3日に神武天皇祭が行われていた。


「それでは、最後に我が帝国陸海軍の合同参謀総長を、そして内閣総理を兼任されておられます東久邇宮稔彦殿下からお言葉があります。殿下。どうぞ壇上へ。」


かつかつと音を立てて首相が壇上に登る。


「皆さま、こんにちは。東久邇宮参謀総長です。私からこの場所をお借りしてぜひとも大東亜戦争について語らせていただこう。

 我々は支那事変から始まり、十年もの間戦争を続けてきた。十年間だ。

 六年前から始まった太平洋戦争からさらに戦争は肥大化し、我々はアジアを欧米の手から解放すべく世界の半分で戦った。一時は劣勢であったが今は確実に勝利に近づきつつあり、米帝の力は日に日に衰えつつある。

 だが私はこの戦争の中で何か恐ろしいことが起きているような気がしてならない。それは兵士が人を殺すことではない。それは単なる"戦争の日常"だからだ。それでは恐ろしいこととは何か?ぜひ答えてしんぜよう。私が最も危惧しているのは"戦争が日常になっている"ことである。あまりにも長く続いた戦争を前に、我々は兵士が兵士を殺すという状況を恐ろしいほど冷静に見ている。我が兵が敵兵を射殺し、敵兵が我が兵を爆殺し、我々は敵のスパイを処刑する。

 そんな狂気の連鎖をまるで当たり前かのように我々は澄ました顔で見ているのだ。こんなことは当たり前なんかではない。当たり前になってはいけないのだ。

 軍隊と政治、そして生活が密着した今の日本は大東亜戦争が終わった後も次に起こる戦争に平気な顔で参加するだろう。百万もの人が死んだ戦争の後でもだ。

 腹をくくって戦争に挑むのと、深く考えもせずに戦争に行くのではまったくもって意味が違う。我々は日本を作り直すチャンスを手に入れるために米帝に攻撃を仕掛ける。必ずや吉報が入るようにしよう。

 それが終われば君たちの番だ。軍隊と政治、生活を引き離してやってくれ。」


そして-と一息ついた殿下は力強く、自身の言うべきことを臣民に伝えるべく、また語りだす。


「戦争に束縛されたこの年代の次には少なくとも平時は戦争を気にすることなく過ごせる臣民を取り戻すため。自らの行いを否定するために戦地で散りゆく兵士のことを忘れないでほしい。

 私はもう一度戦争を非日常のものに引き戻したい。

 戦争を"当たり前ではないもの"にしたい。

 日本を"戦争"という呪縛から解放したいのだ!

 我が帝国軍は米国本土に対して最後の大攻勢を実行すべく計画を練っている。この計画が実行された時には、我々の勝利を祈ってほしい。そして、次の世代へ本当の日常を取り戻してほしい。

 皇国の未来はこの戦争に懸かっているのだ!」


殿下の目がしらには涙がたまり、数滴、頬に伝っていた。「頑張れよ!」「大日本帝国万歳!」という聴衆の歓声と拍手が大きな渦を作っていた。



 そして、夜のラジオにて...


「臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。合同参謀本部、4月3日午後六時発表。帝国陸海軍は聯合艦隊と上陸用兵員十数万人をハワイ目標に出航せり。帝国陸海軍は聯合艦隊と上陸用兵員十数万人をハワイ目標に出航せり。」


そう国民に伝えた。ハワイ上陸戦の始まりである。

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