第二十三話 満蒙防衛戦

 北方の軍事大国、ソ連から宣戦布告されて二週間がたった日の事。それ以前から満州国、蒙古国近辺国境での軍事衝突はあったものの、その日の攻勢は普段のものとは一線を画していた。


 ある寒い冬の朝、突如として大量の肉壁とIS-3という大きく、重い鉄の要塞が大口径主砲をぶっ放しながら黒竜江を渡河し、満州国領内に侵攻してきた。満洲方面の防衛を担い、歴戦で精鋭部隊と化していた関東軍でさえもずるずると撤退させられる。


「主砲、装填完了しました。」


砲手が車長に告げる。


「照準、敵戦車。射撃用意...射てっ!」


戦車砲から響く重低音と噴煙とともに砲弾が飛ばされる。が、その弾は正面装甲に直撃した後、あらぬ方向へと飛びあがった。


「なっ...跳弾しただと...⁉」


 あの重装甲米国製戦車の装甲も貫徹できる7糎半戦車砲の徹甲榴弾でさえもやすやすと弾く。その装甲には鋭角な傾斜が施されていた。


「再装填完了です。」


「照準、敵戦車下部。射撃用意...射てっ!」


パコォン!という薄いアルミ鋼板に機関銃の弾が当たったような気味の悪い音とともに戦車が停止。炎上した。


「良し!エンジンか操縦手を殺ったぞ!側面に回れ!至近射だ!」


「了解!」


車長の指示の下操縦手が車体を手足のように扱い、敵戦車の側面に回り込む。


「射撃用意!射てっ!」


重い金属音と同時に敵車両の車体に大穴が開く。それと同時に戦車が爆発し、砲塔と車体の二つに分かれた。


「おぉ...やったな...」


車長は体の力が抜けたのか、どさっと車長用椅子に座り込む。


「よし。これで破壊のコツはつかんだ。」


そう言い、無線を取り、話始める。


「敵車両は鈍足だ。われの機動性を生かして背側面から徹底的に砲弾を撃ち込め!」


と。そして数の圧倒的劣勢の中でも技量的優勢を保ち続け、結果、攻め込んできた敵車両のうちチト大隊が全体の三分の二を撃破した。


 結果、ソ連軍は包囲され、人海戦術を用いた無停止突撃も意味をなさず、攻勢開始からたった五日で攻撃部隊すべての殲滅が完了した。こちら側も多量の戦車と火砲、人的被害、そして黒竜江沿岸の繁華街は更地になったが、ソ連兵七万人を一挙に撃破。畑から人の取れる国ではあるが、これは大きな痛手になったであろう。


 その後、逆に攻勢作戦を開始。極寒のシベリアを自転車部隊が駆け回り、一カ月が経とう頃にはハバロフスクやウラジオストック、ベルホヤンスクを占領し、カムチャツカ半島や北樺太の制圧も完了していた。


 当初は防衛戦であったが、蓋を開けてみると逆に敵領地を占領していた。


 そして、この戦闘の中である逸話ができた。


敵戦車の履帯を威力の弱い手榴弾を束ねた即席の対戦車地雷で破壊し、キューポラを勢いよくこじ開け、車内で銃を乱射するという狂気っぷり。結果、歩兵による敵重戦車撃破、鹵獲という記録が残ることになった。このような戦果は意外とビルマ戦線や支那戦線、太平洋戦線でもよく見られたそうな。この話はソ連偵察兵の目がしっかりとらえており、このことは「大和の鬼」と名付けられ首都のモスクワでは大々的に報じられることになった。

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