第十四話 参謀から聞かされたのは...

 バダビアで修理を終えた聯合艦隊は東京に寄港し、山本五十六長官は合同参謀本部海軍軍令部へと向かっていた。



「野村副参謀総長。山本長官がいらっしゃいました。」


使いの者。野村の秘書であろう男が参謀室のドアをノックし用件を伝える。


「ああ。入ってくれ。」


直邦は二つ返事で入室を許可した。



「失礼します。」


山本は一礼してから参謀室へ入る。


「五十六君か。ところで、要件とはいったい何んだ。」


「東南アジアの軍政地域についてです。」


「ビルマの暗殺未遂なら首謀者はすでに憲兵によって射殺されている。生きていたなら更迭にするつもりだったが、君が気にすることではない。」


「なぜ更迭なのですか?日本が独立を認めたビルマの首相を暗殺しようとしたのですから、明らかに国家に対する反逆罪ではないでしょうか。我が政府の意向とは完全に食い違っています。」


「五十六君は別に暗殺未遂について話しに来たわけではないのだろう?」


「ええ。仰る通りです。本日は我が帝国政府の軍政インドネシアに対する処遇についてお尋ねするために来ました。」


「ほお。」


直邦は机上で腕を組んで山本の話を聞こうとする。


「インドネシアでは独立の未達成に対する不満が増大しています。今村大将によれば、反乱の可能性も十分にあるとのことでした。そこでです。インドネシアに対して、いつ頃独立を容認する予定なのでしょうか?」


「君は口が堅い方だったな。今から話すことは誰にも言ってはならん。もちろん今村均にも。」


「帝国の船乗りとして約束いたします。」


「そうか。では」


直邦が一度大きく深呼吸をする。そして、


「まずバー・モウ暗殺未遂について。君は政府の意向に反するといったが、実は少し間違っているといった方がよい。」


「...と、いいますと?」


山本の顔には困惑の色が浮かんでいる。


「二年前に行われた未公開の御前会議があったんだが、そこで「大東亜攻略指導大綱《だいとうあこうりゃくしどうたいこう》」というものが決定された。簡潔に内容を言うと、スマトラ島、マライ島、ジャワ島、ボルネオ島、セレベス島は大日本帝国の永久確保地域にするというものだ。」


「永久確保地域...?」


「意味が分からなくても仕方がない。詰まるところ日本によるアジアの植民地化だ。」


「ちょっと待ってください!ではなぜフィリピンとビルマの独立は認められているんですか⁉」


「その二つは先ほど挙げた地域に含まれていない。永久確保地域外の場所だ。大東亜会議にスカルノだけ呼ばれなかったのを考えてみろ。軍部はもともとインドネシアを独立させる気はさらさらないんだ。」


「しかし、スカルノやハッタといったインドネシア独立家の開放は...」


「あれは全部今村大将の独断だ。軍部は一切の指示をしていない。実際、彼の行動に嫌気がさした大本営は彼をラバウルに転属させている。」


「では、大東亜戦争とはいったい...?」


「欧州の植民地支配からアジアを解放することが目的のうちであるのは間違いない。だが、犠牲の払った戦争には戦利品が必要だ。そこで目を付けたのがインドネシアの資源地帯だったってわけだ。」


「ではスカルノや郷土防衛義勇軍はどうなるのでしょう」


「おそらく容認されない独立に不満が爆発し、スカルノ率いるインドネシア人は反乱を起こし、それを武力で鎮圧したのちに国土に編入するという流れが今の内閣の考えだと推測している。これは陛下の御前で決定されたものだ。変更は容易にはできない。」


「これは独立を願うインドネシア人とアジア人やアジア解放を信じて戦う日本兵に対する裏切りではないでしょうか。もしこのことを今村が知れば...」


「私個人の意見だがな我が帝国軍人の多くが信じているアジア解放の夢は正しいと思っている。」


「つまり...?」


「スカルノを含めた全アジア人を裏切らないため私とその他参謀でできる限りの努力をすることを約束しよう。うまくいくかはわからない。1946年中にはその結果がわかるだろう。我々は決して欧米諸国と同じ道を歩んではならない。」


「私も前線で善戦できるよう帝国軍人の誇りをかけて指揮してまいります。」


山本はそう言った後に一礼し、参謀室を出ていった。

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