第七話 聯合艦隊ニ告グ。硫黄島敵主力艦隊ヲ撃滅セヨ。(後編)

硫黄島近海に展開された聯合艦隊はアメリカ軍主力艦隊との戦闘に入った。


「我敵空母三ヲ見ユ。味方ヨリノ方位二九〇度、距離二五〇浬。針路八〇度、速力二〇ノット。戦艦、巡洋艦多数ヲ伴フ」


 一機の九七艦攻が、そのような報告をもたらしたのである。

 その電文は、武蔵と翔鶴でもしっかりと受信され、五十六長官はただちに第一攻撃隊の発進を命じた。また、近藤中将はこのの時刻を以って無線封止を解除、前衛部隊を務める第二艦隊は主力部隊である第三艦隊の三十浬(約五十五キロ)前方に進出し、第三艦隊は隊列を二分にし、互いに十浬(約十八キロ)の距離を取って行動することを命じた。

三十分後、山本長官は出撃準備の整った第一攻撃隊に発艦命令を下した。八隻の空母から続々と艦載機が飛行甲板を蹴り上げ飛び立っていく。八隻の空母から同時に艦載機を発艦させるのは、日本海軍史上初めてのことであった。

 一部の空母の排水量でいえば、真珠湾攻撃時の六隻に到底及ばないものの、帝国海軍機動部隊の健在を知らしめる勇壮な光景であった。

 八席の航空母艦から発艦した艦載機は合計148機。今までの空母戦闘の中で最も多い数の航空機を一挙に出撃させたのだった。


 艦爆隊が母艦を後にしたのち、第一、第二、第三艦隊は九七艦攻が敵艦隊を補足した海域へと前進していった。


~約十数分後、硫黄島付近~


「敵艦隊視認!目標中央戦艦!全門斉射用意!」


ヂリリリリリリ...と艦内にベルの音が響く。そのあとに大和の46糎三連装砲と15.5糎砲が火を噴き、「ドォン!」と激しい砲撃音を上げる。打ち出された弾はきれいな放物線を描き戦艦ミズーリの艦首、艦尾、艦中央部に綺麗に分散して着弾しバランスを崩させる。するとどこからともなく魚雷で武装した零式艦戦が海面すれすれに姿を現し、魚雷をぽちゃんと優しく海中に落とし消えていった。


零戦が放った魚雷はすいすいと海中を進み斜めに傾き炎上している満身創痍のミズーリに直撃し大爆発。そのままミズーリは轟沈した。


 敵編隊の接近を最初に察知したのは、第二艦隊旗艦武蔵の二一号電探であった。

 北西方向から迫る編隊を、距離九〇キロにて探知。高い艦橋を持つ戦艦であるために、電探による探知範囲は広い。

 武蔵からの警報により、ただちに全艦に対空戦闘用意の下令がなされた。艦内の高声令達器から、対空戦闘用意を意味するラッパの音が響き渡る。

 瑞鳳、龍驤、龍鳳からはすでに十二機ずつ、計三十六機の上空直掩隊が上がっている。これに加えて、三空母の甲板で待機していた残りの機体もただちに発進した。


 それと同時に、武蔵の高角砲がドンドンドンと二度三度、電探の探知した方向に向けて射撃を行う。太平洋の空に、砲弾が炸裂したことで黒煙が上がった。

 この砲撃は、当然ながら敵機に向けたものではない。

 零戦の機上無線は品質が悪く、雑音だらけで声がまったく聞き取れないため、高角砲の砲撃で敵機の方角を上空の零戦隊に伝えたのである。高角砲の黒煙を見た零戦隊は、一斉に翼を翻して北西方向に向かう。

 銀翼を連ねて太平洋の空高くに舞い上がる上がる零戦隊。彼らに向かって対空戦闘配置についた甲板の機銃員たちが盛んに海軍帽を振り、がんばれ、がんばれと声援を送っている。零戦隊こそ、艦隊防空の要なのである。


「直掩隊、敵機と交戦に入った模様!」


 防空指揮所で双眼鏡を覗き込んでいた見張り員が、その姿勢のまま報告する。

 艦隊前方の上空で、黒くとても小さなごま粒のような影が入り乱れている。


 この時、アメリカ軍が放った攻撃隊の内、インディペンデンス隊、プリンストン隊が第二艦隊に迫っていた。それぞれF4Fワイルドキャット十二機、TBFアヴェンジャー九機の戦闘機計二十四機、雷撃機十八機の編成であった。

それらにすでに高空で待機していた三十六機の直掩隊が襲いかかった。

武蔵から見える太平洋の蒼穹に、黒い煙を引いていき、時折尻から炎を上げるごま粒が確認出来た。

戦闘機の数で敵に劣り、さらに第二艦隊に向けて急降下中の雷撃隊は、瑞鳳、龍驤、龍鳳から緊急発進して上昇していた零戦隊と遭遇してしまったのだ。

 アヴェンジャー雷撃隊は上と下から零戦隊に追いかけられ、置き土産にこれをどうぞと言わんばかりに航空魚雷を投下してから離脱をかけたが、それでも生還は叶わなかった。


空海の奮闘により硫黄島近海にいた米海軍主力艦隊は壊滅。敵艦隊は航空母艦1戦艦2重巡洋艦2軽巡洋艦3駆逐艦17の総計25隻のうち空母大破、戦艦撃沈1、中破1、重巡大破2(航行不能と判断され曳航の後自沈処分)軽巡撃沈3、駆逐撃沈12、大破(航行不能)2、中破3と大損害を与えた。一方日本側はというと戦艦1中破、空母中破2、駆逐撃沈2、小破2と大きいもののすべてすぐに修復できるほどの軽傷だった。


日本はここ数日で史上最大の大戦果と言われた南太平洋海戦以来の大戦果を挙げたのだ。



 この海戦の終結後、大敗を知った米海兵隊は次々と日本軍に投降。全員玉砕覚悟で戦っていた日本軍は米軍の撃退に大歓喜していた。

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