硫黄島決戦

第六話 聯合艦隊ニ告グ。硫黄島敵主力艦隊ヲ撃滅セヨ。(前編)

 あの大規模な戦車戦が行われてから数週が経った。この頃には南支からの攻勢作戦も開始されており、東方南方から日本軍の魔の手が重慶に迫りつつあったそんな時だった。


「ん?なんだあれ...聯合艦隊か...?」


硫黄島の東方、太平洋側に空母と戦艦、駆逐艦や巡洋艦たちで編成された艦隊が近づいてくる。


「おい!よく見ろ!」


横で双眼鏡を持った兵士が叫び声をあげる。彼から渡された双眼鏡を覗くとそれらの船の艦橋マスト部にある識別旗にはアメリカ海軍旗があった。


「奥に輸送船団もいる...嘘だろ...まさか米軍の上陸...?」


「本当か⁉」


僕に双眼鏡を渡した兵士が僕の手に握られた双眼鏡を強引に奪い取り覗き込む。


「本当だ...栗林中将に伝えなければ...!」


そう言い、彼と俺は司令部に向けて走り出した。


そしてその数十分後、数えて約5から6万人のアメリカ兵の大軍が東岸部から襲い掛かってきた。過去の大撤退はアメリカ軍の作戦を攪乱できると思われていたのだがこのタイミングで上陸作戦を仕掛けてくるとはアメリカもしっかり考えてきたようだ。だがしかし。この島は絶対防衛圏の縮小に伴い浮いた資材を利用して栗林中将の指揮の下高度な要塞を建造してあった。


「ヒャッハー!アメ公のお出ましだぜ!撃って撃って撃ちまくれぇ!」


島を一望できる摺鉢山すりばちやまの砲撃陣地では砲兵隊が九五式野砲と八九式擲弾筒を用いて上陸するアメリカ兵を爆殺していた。ドンドンと火砲の音が聞こえ、弧を描きながら砲弾が海岸へと飛んで行き、着弾と同時に米兵を十人二十人と吹き飛ばしていく。


「わお、肉の塊だけかと思ったら鉄の塊まで出てきちまったぞ」


砲撃陣地にいた観測手が思わず声を上げた。するとそれを見てか砲撃陣地で指揮を執っていた栗林忠道くりばやしただみち中将が微笑し、


「我らが『九七式十二糎自走砲《キングチーハー》』の出番だな。」


そう言って、無線機を手に取った。


「〈イヲウジマ〉こちら司令。敵シャーマン戦車の上陸を確認。各員徹底的に叩き潰せ。」


「こちら〈イヲウジマ〉。了解。」


「頼んだぞ。キングチーハー。」


そこで指令からの無線は途切れた。




「〈イヲウジマ〉各車へ。地点『イ』に到着次第一斉射。その後は各自好きに撃て。だが車体は晒すなよ。」


「了解!」




上陸したシャーマン中隊は我らがキングチーハーの存在など知らず、のこのこと屠殺場《地点『イ』》へとやってくる。



「ようこそ。屠殺場へ。」


中隊長は不敵な笑みを浮かべたのち


「カク、カク、各車射撃用意。目標前方より車列先頭、二番目、三番目。一斉射用意...てっ!」


射撃の合図を掛ける。

「バァン!」というほかの大口径榴弾砲とは比べ物にならない爆音を上げ、爆風に車体を揺らしながらも先頭の車両三輌を木端微塵に撃破し四番目の車両も前方シャーマンの破片で履帯を切断させた。


「中隊長より、予定通り各車、敵車両を完全に殲滅せよ。」


「次、左方最後部シャーマン、てっ!」


射撃された砲弾は地面に刺さったもののさすがは超大口径120粍、爆発だけで粉砕した。

 そしてこの『キングチーハー』とは硫黄島にあった十年式十二糎高角砲じゅうねんしきじゅうにせんちこうかくほうを九七式中戦車の砲塔と車体上部を取り払った車台にあり合わせの材料で作った砲架とともに固定した即席自走砲『九七式十二糎自走砲《きゅうななしきじゅうにせんちじそうほう》』の愛称である。


 キングチーハー部隊は上陸したすべての戦車を破壊し、熟練砲兵たちの集う砲兵隊の正確無比な砲撃も相まって約六倍という圧倒的な戦力差がありながらも優勢的な防衛を続けアメリカ軍の死者は上陸作戦部隊の八割に上った。窮地に立たされたアメリカ軍が援軍の要請を行ったころ、山本五十六長官率いる聯合艦隊が艦橋マストにZ旗を掲げた旗艦大和を先頭に突如姿を現したのである。

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