第五話 華北攻防(対シャーマン戦闘)

 福健の攻略が終了してから戦闘に参加した五十万の兵力と総計八百輌の戦車は福健の比較的被害の少なかった港から輸送船に乗せられ青島の海軍基地へと輸送されていた。


「俺は戦車を十輌も潰したぞ!」


「まだまだ甘いぞ君島きみしま少尉。俺は十五輌だぞ!」


「ほらほら和泉中尉。大本営発表はおよしください。」


船内では戦車長たちが集まり自分たちの戦果を誇張しながら話していた。

ここでは皆、今が窮地であることも忘れて次いつ会うかもわからない、もしかすると一生会えないかもしれない戦友なかまと会話に花を咲かせていた。


「この戦争、早く終わらないかな...」


皆が固まる中で隅に一人、そうボソッとこぼす青年がいた。





 青島港に着いたチハ大隊とハ号大隊、そして本土で兵器更新と訓練を済ませたチヌ大隊が合流し、華北奪還を狙う支那主力軍の撃破殲滅作戦の準備のために前線に移動した。北京奪還も目前に迫っている。もう時間がなかった。

前線に全部隊が到着したことが確認されたのと同時に攻勢が開始された。


 日本軍の嵐のような歩兵と戦車による吶喊攻勢は三日三晩休むことを知らず、支那兵を蹂躙した。日本軍が通った後には支那兵の死体や四肢が転がり、近くの村は焼き討ちされ食料や家畜が奪われた。独特な随伴歩兵の陣形から織り成される対歩兵、対戦車戦は無限の人的資源とアメリカ式訓練を受けた質のいい師団をいともたやすく撃破殲滅していった。中国大陸北部の前線は瓦解し、気づけば首都移転先の重慶まで迫ろうとしていた。


 ブロロロロ...と空冷四ストロークのエンジンが低い唸りを上げながら18トンもある三式中戦車『チヌ』の車体を動かす。その後ろには一式中戦車『チヘ』、九七式指揮戦車『シキ』が随伴していた。そして華北の農村部に差し掛かった時、「ドォン!」という砲声が聞こえ、車列中部のチへが火を噴いた。


「十三時の方向!竹林からだ!」


そうある戦車兵が無線に向け叫ぶ。その後に竹林から十両ほどのM4シャーマン中戦車が出現した。まもなくしてその存在を認知したシキは


「戦闘用意!直ちに敵戦車部隊を殲滅せよ!」


そう指示を出し岩陰から観測装置を覗かせる。

チヌ大隊の一車輌では早速射撃戦が始まっていた。



「徹甲弾装填完了。」


砲手がそう車長に告げる。


「照準、敵シャーマン中戦車。射撃用意...」


「射てっ!」



「バシュッ!」と弾が砲身を通過し撃ち出される。その弾は美しくスクリュー回転をしながらシャーマンの側面に刺さる。それと同時に火の手が上がり、爆発した。ごうごうと燃え上がるシャーマンの中ではかろうじて生き残っていた戦車兵が無慈悲にも炎に巻かれ、焼き尽くされていた。


「敵車両爆破炎上。次弾装填完了済。照準、右方シャーマン。」


砲手が装填完了の合図を送る。


「射撃用意...射てっ!」


次に発射された弾は敵車両に命中することなくかわされてしまった。突如、車両に重い衝撃が走る。それと同時に中の装甲版がめくれ上がり、そこから徹甲弾の先端が顔をのぞかせた。


装甲を貫徹されたのは操縦手側。その操縦手は砕けた装甲の破片によって体中を穴だらけにされ息絶えていた。


「射撃装置大破!本弾射撃すると本車両に甚大な被害が及ぶと思われます!」


「射撃用意...」


「本気ですか車長⁈死ぬ可能性だって...」


「ああ。御国のために死ねるとしたら本望だろう。」


「そうですか...そうでしたね。車長。」


「最期だ。靖国でまた会おうじゃないか。」


彼らの目には涙がにじんでいた。が、その顔に迷いなんてものは一切なかった。


「ってー!」


「ドォン!」という爆音とともに徹甲弾は発射され、敵の装甲版を貫いた。だが、さっきの爆音と同時に彼らの車両も砕けていた。



その後後続部隊が到着し数的劣勢はすぐに覆された。三十分ほどの戦車戦で日本軍中戦車5輌軽戦車4輌の計9輌被撃破。シャーマン部隊は全車両撃破という形で北支の戦車戦は日本の大勝利で幕を閉じた。

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