プロローグ

第一話 絶望の1944

 1930年代、世界恐慌を皮切りに大日本帝国の暴走は始まった。

1931年には政府の反対を押し切って軍部は満洲事変を強行させ、広大な荒野に清王朝最後の皇帝である溥儀ふぎを立て、軍部の傀儡政権である満州国を建国した。

さらに1933年には「日本軍は満洲から撤退しろ」というリットン調査団の見解のもと決された国際連盟の決議に対し大日本帝国は反発。3月27日に国際連盟に脱退の通告をし、同年にワシントン海軍軍縮条約を脱退した。

1936年には皇道派青年将校によるクーデター未遂、「二・二六事件」が2月26日に発生し、結果軍部大臣現役武官制が復活し、軍人が政治に関与できるようになりシビリアンコントロールが失われ日本政府はすでに形骸化していた。

歯止めの利かなくなった東アジアの帝国は1937年に発生した盧溝橋ろこうきょう事件、第二次上海事変の2つの事件を機に中華民国との宣戦布告なしの全面戦争に突入した。開戦したての頃は快進撃を続けたものの、兵站システムの問題から補給が滞り、膠着状態になった。

ドイツやイギリスによる協力で日中間の和平交渉が始まるがその交渉も決裂。この時点での日中戦争での最大の難点は援蒋えんしょうルートという米英仏の対中華民国支援ルートであった。

イギリス領インドルートとフランス領インドシナルート、この2つは戦争に関わらない中立国を経由するために、封鎖は困難だった。軍部はこの問題に頭を抱えたが、その問題もすぐに解決することになった。日本の反対側、ヨーロッパで繰り広げられていた第二次世界大戦で我が国の同盟国であるドイツがフランスのパリを陥落させ、降伏させたのだ。

このことから日本は援蒋ルートのひとつの仏印ルートを遮断できると確信。ドイツによって建国された親独政権のヴィシーフランスにインドシナ北部、トンキンの割譲を要求。現地住民による多少の抵抗もあったものの日本は北インドシナ進駐を果たし、新たな領土を獲得た。そして、同時期に日独伊三国同盟を締結したが、これらの行動は今まで良好であった日米関係を非常に悪化させた。というのも1921年に締結された四カ国条約などが示すようにアメリカは自国の太平洋における優勢を保つため、太平洋の領土変更は断固として避けたかったのである。

アメリカは日本の進駐に対して猛反発。対日制裁を格段に引き上げていった。

次第に増していく禁輸政策に日中戦争の継続は不可能になるのは明らかであり、1941年からは日本はアメリカとの本格的な交渉を開始した。

日中戦争の打開を図る日本と太平洋情勢の安定を図るアメリカの間で日米交渉が始まったのである。だが、同年七月末に日本が南部インドシナまで進駐したことにより、アメリカは自国の意思を無視したと判断。日本に対する石油の輸出を完全に停止した。

これによって日本は次第に追い詰められていき、最終的にハル国務長官から提案された「ハル・ノート」という提案にて、日本の要望が完全に拒否されたことから、軍部は開戦を決意した。


 そして、1941年12月8日に大日本帝国海軍はハワイの真珠湾に攻撃を敢行。ついに太平洋戦争が開戦したのだ。

そして日本は同日マレーシアを攻撃し、数か月後には「東洋のジブラルタル」と称される英国の大要塞シンガポールを陥落させた。

加え同時期に発生したマレー沖海戦では戦艦「プリンスオブウェールズ」を含む英国の主力艦隊を撃破。さらにフィリピンの占領も完了し、だれが見ても日本の初戦の大勝は明らかだった。その後も連勝を続け1942年の5月には東南アジアの大部分を占領。しかしその優勢も続きはしなかった。同年6月5日にミッドウェー海戦で日本が大敗したのだ。これによって日本の戦力は一気に弱体化した。11月15日には第三次ソロモン海戦が発生し敗北、加えてガダルカナルの撤退など、優劣が一気に逆転した。

 1943年4月にはブーゲンビル上空山本五十六長官の搭乗した飛行機が撃墜されたが、右脚と胸部、肩を骨折するだけで済んだのは不幸中の幸いだった。


そして1944年に入ると戦局はさらに悪化。2月にはトラック島の航空基地が壊滅し、同年4月のインパール作戦も大失敗に終わった。

6月には連合軍がノルマンディーに上陸し、これを陽動だと思ったドイツ軍は機動的に動くことができず、多大な損害を被った。


これらように枢軸国の劣勢は確実なものであり、今後は沖縄や台湾が次々に陥落し、アメリカは本土上陸を試みるであろう。防衛などしていても戦局は変わらない。もし一筋の希望があるならばそれを摑むべきだ。


我が皇国は最期の反抗を行う。


そして連合軍を撃滅しこの戦争に勝利するのだ。


皇国ノ興廢コノ一戰ニアリ

各員一層奮励努力セヨ

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