第4話 白い粉
「なんでぼくがこんなことやらなきゃいけないんですか」
ムネチカは泣きそうな声で言った。
モイラはファッション雑誌のページをひたすらカッターで切っていく。
テーブルの上には小さなキッチンスケールがあり、バズが白い粉をスプーンですくっては乗せている。
次にそれを正方形に切り揃えた紙に乗せて、何重にも折り、包んでいく。
「さっさと手伝って」モイラは視線をこちらに向けることなく手を動かしている。
「これってドラッグでしょ?」ムネチカの問いに「そうだよー」と陽気にモイラが答えた。
バズは部屋に流れるテクノミュージックに小さく体を揺らしながら作業に勤しんでいる。
ムネチカは今にも泣き出しそうだ。
「これって、違法じゃないですか」
モイラは、うん、とニッコリ微笑んだ。
「おまえ、やったことある?」バズが言った。
「あるわけないでしょ」
「そうだよね。日本人だもんねー。でもさ、何でもそうだけど、やってから良し悪し決めてみれば?偏見はいけないよ。ほら包み方教えるから手伝って」モイラは話しながらも器用に包んでいく。
「これが俺たちの週末の生活なんだ。嫌なら荷物まとめて出て行くか?」バズのメガネが光る。
「言いかたキツイなぁ。ほんとに出て行かれたらどうすんの。またいちからフラットメイト探すの?日本人が入るなんてラッキーなんだよ?金払い良いし、文句言わないし」
といって、モイラは紙を切る手を止めた。
「ひとつ十二ポンド。三十も売れば、家賃の足しになるよ」
「ぼく、こんなことしなくても家賃はちゃんと払いますよ」
「どのみちキミもドラッグはやるんだろうし、いつかはね。やるんならあたしたちと一緒がいいと思う」
「ぼくはやりませんよ」ムネチカは、テーブルに近づこうともしない。
モイラがふたたび作業の手をとめてムネチカを見た。
「今日はあたしの誕生日なの。一緒に祝ってほしいの。ほら、あたしたちって友達じゃない?」
(友達って。ただのフラットメイト、同居人でしょ)
とは、言えなかった。そんな度胸をこの少年は持ちあわせていない。
ムネチカはぎこちない手つきで、ひとつだけ包んでみた。
子どもの頃にやった折り紙を思い出しただけで、罪悪感は感じなかった。
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