第3話 男娼のモイラ
「ふう、やっぱりモイラちゃんはナンバーワンだなぁ」
今日の客は、自称シティーで働く証券マンだ。
「みんなにそう言ってるんでしょ」モイラは乱れた髪をポニーテールに結いながら微笑したが、内心は早くこのベタつく汗を洗い流したくて仕方なかった。
「そんなことないよ」男は丸々とした腹にベルトを通しながら明るく返した。
モイラの値段は三十分で百二十ポンド。男娼にしては高額だが、元締めのユダヤ人に四割取られるので、手元には七十二ポンドしか残らない。
扉の前には、今日もキーモが立っていた。
部屋を去る直前、客が小さな声で聞いた。
「彼、モイラちゃんの何なの?彼氏?」
「そうだよ」ニコリと笑った顔が幼い。そこが変態どもに人気の理由なのだろう。
「へぇ」こわごわと、大きな柱でも避けるようにして、キーモの横をすり抜けて客は出て行った。
ホテルのシャワー室でようやく不快な身体を清め、一息つく。
「はい!終り終わりー」まるで子供のように部屋から飛び出して、モイラはキーモの腕に抱きついた。
そのあと、二人は近所のパブへ行き、乾杯をした。
今日はモイラの誕生日なのだ。
そして嬉しいことに、ハックニーで大きなパーティがある。
「今日はこれからオヤツを買いに行ってきます」
小さく敬礼すると、モイラは陽が傾いたオックスフォードストリートで、キーモと別れてバスに乗った。
モイラの住んでいるフラットは、インド人が営むファストフード店の上にある。
スパイスの香る階段を駆け上がり、玄関のドアを開けると、急いで部屋に戻り、香を焚き、パーティ用の服に着替えはじめた。
隣のバズの部屋からは四つ打ちのビートが低く響いてくる。
黒のタイツに、ダメージ加工されたショートジーンズ、古着ショップで見つけたお気に入りのレディオヘッドのTシャツを合わせながら、モイラは大きな声でムネチカの名を呼んだ。
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