第11話 新陳代謝
「ふ、我ながら完璧だ」
キラービーの巣から蜂蜜をかっぱらい終えた俺は、ほくほく顔で呟いた。
この蜜がどの程度の価値があるのかは知らない。
だが重要なのは蜂蜜の値段ではなく、その採集に俺が大活躍した事だ。
「がはははは!な!俺の言った通りだろう!」
ピクミンが豪快に笑う。
彼の秘策、その名もスノーパウダー作戦は大成功を納める。
この俺の大活躍により!――大事な事なので2回言っておく。
俺のスキル、焼き肉のタレは成分をコントローする事が出来る訳だが。
コントロールできるのは成分だけでなく、温度も自由に調整する事が出来た。
その機能を利用し、俺はタレをスノーパウダー状にしてキラービーの巣がある周囲一帯にばら撒いたのだ。
その結果辺り一帯の気温が下がり、大きく動きが鈍った所でピクミンとサリーが――暴走しない様低位魔法を使用――キラービー共を始末して蜂蜜を回収している。
これがスノーパウダー作戦の概要だ。
間違いなく今回の作戦のMVPは俺だろう。
うんこ漁りではなく、ちゃんとした仕事で活躍できた自分が誇らしい。
「それにしても、あんたのスキル結構便利ね」
カティが俺の腕をまじまじと見つめる。
彼女が俺の事を褒めるのは初めてかもしれない。
「ふ、俺に惚れるなよ」
「自惚れんな。スカトロ野郎!」
仕事で手を突っ込んだだけだと言うのに、酷い言われ様だ。
まあ俺がカティでも同じ感想を抱くとは思うが。
「凄く一杯白いの飛ばしたけど、消耗とかはしてないみたいね」
サリー君。
白いの飛ばしたとか、卑猥な言い方は止めて頂きたい。
まるで俺が下品な事をしていた様に聞こえてしまう。
「ああ。言われてみれば、全然疲れてないな」
今回の粉雪状のタレは、正確な数字は確認できないが軽く百リットル以上は生み出している。
あれだけ使って全く疲れがないと言う事は、スキルで体力等は消耗しないと考えて良いだろう。
「あれだけの量の水分を消耗無しで使えるなんて、便利なスキルじゃない」
最初は糞スキル寄越して女神死ねとしか思っていなかったが、使い方のバリエーションの豊富さや、消耗無しって事を考えると案外悪くないのかもしれない。
まあ個人的には山を吹き飛ばす様な強烈なスキルの方が100倍嬉しかったので、所詮案外のレベルは超えないが。
「それで?この蜂蜜って高く売れるのか?」
作戦聞いて行けそうだと思ったから狩りはしたが、よくよく考えると蜂蜜の価値を聞いていなかった。
態々魔物を狩って手に入れているのだから、そこそこ価値はある物だとは思うが。
「これか!これは姉さんね用だ!」
「は?」
ピクミンの言葉に俺は首を捻る。
姉用?
どういう事だ?
「これには新陳代謝を促進させる効果があるからな!これで若返りの呪いに対抗だ!」
呪いに対抗?
呪いって新陳代謝でどうにかなる物なのか?
「サリー姉さんは呪いで今も若返り続けているから、新陳代謝を上げて少しでも加齢しようって事よ」
カティが補足してくれる。
が、今一わからん。
イメージ的には新陳代謝って、どっちかというと若返りなんだが。
まあ細胞分裂が進むって事は年を取るって事?だから、それで対抗しようって事か?
ようわからん。
ていうか――
「え?今もまだ若返り続けてんのか!?」
「ええ、最後は胎児に戻って機能不全で死ぬ事になるわ」
サリーが自嘲気味に答える。
只若返っただけではなく、これからも若返り続けて最後には死ぬとか……
サリー達はそんな素振りを見せなかったからまるで気付かなかったが、結構えぐい呪いだぞ。
「マジか……蜂蜜で何とかなるのか?」
「まあ、蜂蜜はあくまでも気休めにしかならないんだけどね」
「がっはっはっは!大丈夫だ!たくさん飲めばきっと良くなる!」
そういう問題か?
本人が気休めって断言してるのに、大量に飲めば何とかなるとは到底思えないんだが……
「ふふ、そうね」
だがサリーは嬉しそうに笑う。
きっと弟が自分の事を心配してくれているのが嬉しいのだろう。
たとえそれが気休め程度の効果だとしても。
「じゃあ帰りましょうか」
「おう!」
ピクミンとサリーは森の出口方向へと歩いていく。
だがカティは俺の傍にやって来て――
「ただ働きみたいな事させて悪かったわね」
「別にいいさ。パーティーメンバーの為だろ」
彼女が謝って来たので笑顔で返した。
流石にサリーの事情を聞かされて、ただ働きさせやがってと怒る程俺も鬼畜ではない。
俺が心を鬼にするのは蟻地獄に対してだけだ。
「ありがとう」
そう小さく呟くと、カティは二人の後についていった。
勿論俺もそれに続く。
こんな魔物の居る森で置いて行かれたのでは、命がいくつあっても足りないからな。
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