第7話 何が好きかで自分を語る

「ふげっ?」


目覚めると顔に大きな何かが乗っていた。

しかも臭い。

俺はそれを跳ねのけて、ゆっくりと体を起こす。


見るとピクミンが180度ひっくり返っていびきをかいていた。

どうやら乗っていたのはこいつの足だったらしい。

道理で臭かった訳だ。


「ふぁ~あ」


因みに、同じ布団で寝ていたのは腐った女子が喜びそうな関係になったからではない。

俺のために用意された支度金を。ピクミンのアホが使い切ってしまったからだ。

金がないならせめて寝床を寄越せと言ったら、取り敢えず奴の部屋に暫く厄介になる流れになった。


取り敢えず起き上り、部屋を出る。

すると俺と同じタイミングで横の部屋のドアが開く。

中から出て来たのは隻腕の女性、カティだった。


「おはよう」


「……おはよ」


笑顔で拶するも、ぶっきらぼうに返される。

昨日散々人の金で美味しい肉をたらふく食ったんだから、愛想笑いぐらいしろよな。

全く、鼻毛を抜いた程度でいつまで怒ってるんだか。


カティはこっちを見たまま動こうとしないので、取り敢えず俺は階段を下りて一階へと向かう。

2階はピクミンとカティの部屋だけで、1階にサリーの部屋やリビングがある。

階段を降りると、湯の湧く音と、トントンと何かを切る音が聞こえて来た。


サリーが割烹着を付けて料理をしているのが見える。

朝食の用意っぽい。

カティは左手がない隻腕だし、ピクミンは絶対料理とか出来そうにないので、必然的にサリーが食事の準備を担当する事になっているのだろう。


「おはよう。何か手伝おうか」


「おはよう。気持ちだけ貰っておくわ。貴方は顔でも洗ってらっしゃい」


小さな体では大変かと思い声を掛けたが断られた。

まあ台所は主婦の戦場――サリーは別に主婦ではないが――というから、見知らぬ男を入れたくないのかもしれない。


「わかった。何か手伝う事があったらいつでも言ってくれ」


金を使いこまれた代価としてこのブライト家に宿泊しているので、別に手伝いなどする必要などないのだが。

日本人的感覚として何もせずと言うのは居心地が悪るいので、手伝いの意思は伝えておく。


「ええ、その時は遠慮なくお願いするわ……あ、そうだ!悪いんだけど外の井戸から水を汲んできて貰えるかしら」


「ああ、それ位お安い御用だ」


その時とやらは一瞬でやって来た。

きっと料理に使うのだろう。


「ピクミンは水をひっかぶせないと起きてくれないから、水を汲んだらそのままあの子に掛けに行ってくれないかしら」


目覚まし用かよ!

しかしダイナミックな起こし方だ。

だが確かにピクミンなら納得は出来る。

あいつ地震とかおきてもグースか寝てそうだしな。


玄関を抜けて井戸へと向かう。

その手前で俺は凹んだ土を見つけた。

その瞬間、俺のヘルアーントイーター・ハンターの血が騒ぐ。


「勝負だ!」


穴をほじくり返し、グロテスクな見た目の地獄蟻をフィッシュオン!


「くくく。お前がこの世界最初の餌食だ。光栄に思うがよい」


「何やってんのあんた?」


楽しく厨二ごっこしていると、背後から急に声を掛けられる。

驚いて振り返るといつの間にか背後にカティが立っていた。

俺に気づかれづに背後を取るとは、流石シーフだけはあると感心せざる得ない。


「趣味だ」


「その気持ち悪い虫をいたぶるのが?」


「その通り!俺は蟻地獄をいたぶるのが大好きなのさ!生きがいと言っていい」


親指を立てて、爽やかににかっと笑う

昔某少年誌の大人気漫画で「何が嫌いかじゃなく、何が好きかで自分を語れ」って台詞に、以前感銘を覚えた事がある。

俺はそれを信じて実践してみた。


「……きも」


カティはすっごく汚い物を見る目で俺を見て来る。

ミッションフィールド!

どうやらこの異世界では、好きな事で自分を語ると言う論法は通用しない様だ。

異世界恐るべし。


「まあいいわ。私、ちょっと出かけて来るから姉さん達に伝えておいて」


「家出か?感心しないぞ」


「そんな訳ないでしょ?ばっかじゃないの」


小粋なジョークだったのだが通用しなかった様だ。

ふんっと鼻を鳴らして、カティは俺の横を通り過ぎていく。

今の所好感度0待ったなしの様だ。

取り敢えず俺は蟻の巣を探し、手にした蟻地獄への死刑執行を行う。


そういや何で俺、こんな事する様になったんだっけかな?


蟻地獄をアリの巣に捻じ込みながら考える

ああ、思い出した。

確かラノベのざまぁ物に嵌ったのがきっかけだ。


巣に落ちて理不尽に蹂躙される蟻を見て、ならば俺がざまぁさせてやろうって事で始めたんだった。

冷静に考えたら生きる為の捕食にざまぁも糞も無いのだが――そもそも蟻も他の昆虫を捕食したりしてるし――まあ生きがいとなった今では些細な事と言え様。


一仕事終えたので家の横にある井戸から水を汲み上げ、桶へと移す。

それを持って家に戻り、階段を軽快なステップで駆けあがる。


「ランランル~」


人に水をぶっかけるなんて人生初だ。

そういう機会に今回恵まれた幸運に感謝しながら、ピクミンの部屋の扉を開けると同時に発射の準備に入る。


「おう!姿が見えないから死んじまったのかと思ったぞ!」


ピクミンは布団から起き上がっており、俺を見て軽く手を上げる。

うん、無理。

モーション的にもう手遅れだ。

俺は手にした桶の中の水を奴にぶちまけた。


飛び出すな、車は急には止まらない。

名言だね。

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