第3話 焼き肉のタレ
「どうかしたのかね?」
俺とピクミンが自らの意思を通すべく土下座に興じていると、階段を下りて来る足音が聞こえる。
そちらに視線を移すと、貴族然とした金髪ロン毛のイケメンが階段を下りて来るのが見えた。
男は優美な足運びで、階段をゆっくりと下りて来る。
「上まで騒ぐ声が聞こえてきていたよ」
そして俺達の前まで来ると、その長く綺麗な髪をかき上げキザったらしく笑う。
この表情は自分がイケメンだとしっている表情だ。
顔に自信が無ければ出来ない。
まあチャック開いてるけど。
「あ、マスター。実はですね、この方達が――」
胸の大きな受付のお姉さんが、マスターと呼んだ男に経緯を説明する。
だが俺は見逃さなかった。
彼女がマスターとやらの社会の窓に気づいて、一瞬ギョッとした表情になった事を。
「という訳なんです」
彼女は明かに気づいているが、どうやらマスターとやらに教えてあげる気はない様だ。
「ピクミン。その様子じゃ違約金を払う当てはないようだね」
「その通り!」
問われたピクミンは勢いよく立ち上がり、人差し指を立てて両手を天に突き上げる。
今にもハラショーとか言い出しそうなポーズだ。
「やれやれ……それと君は身分証が無いんだってね」
「はい!実は異世界から来たばかりなんです!という訳で冒険者登録お願いします!」
真実を話すべきか少し迷ったが、奴の豪快な社会の窓に免じて素直に話してやる事にした。
異世界から来たばかりの可哀そうな俺への同情プリーズ。
「ふむ。嘘はついていない様だ」
「え!?信じちゃうんですか!?」
あっさり俺の言葉を信じたマスターに、受付嬢が驚いて聞き返す。
どうやらこの男にはチョロイン属性が備わっている様だ。
まあ俺はそっちの趣味は持ち合わせてはいないので、どこかでフラグをへし折っておく必要があるな。
「マスター権限で彼の身元を保証する。登録してあげたまえ。それとピクミン。違約金の件は見逃して上げても構わないよ。但し条件があるから付いて来るんだ」
「本当か!流石マスターだぜ!!」
男はそう言うと、降りて来た階段を戻って行き。
ピクミンはその後に付いて行った。
「それでは登録を致しますので、お名前を宜しいですか?」
「ん?名前?えーっと……スレインだ。そう!スレイン・エバラだ!」
名前は変更しておく。
ここはファンタジー異世界だし、真名を知られると悪用されたりされなかったりするかもしれないからな。
「スレイン・エバラ様、と」
彼女がカウンターの上に置いてある紙に手を翳すと、そこに俺の名(偽名)が浮かび上がる。
タイプライターいらずとは、流石ファンタジーの世界だ。
「では次にクラスをお願いします」
「クラス?A組とかB組とか?」
因みに幼稚園の時はウニ組だった。
園長がウニ好きで無理やり捻じ込んだらしく、薔薇とかキリンに混じってウニ組だけひたすら浮いていたの思い出す。
「いえ。学校のクラスではなく、適正職業を……っと、そう言えば異世界人(笑)でしたね。ではこちらの方で判定しますので、手を出してください」
口で(笑)とか言われたのは生まれて初めてだ。
さっきの社会の窓のを伝えなかった件と言い、この受付嬢さんは少し性格が悪そうだ。
まあどうでもいいけど。
取り敢えず、言われた通りカウンターに手をつき出した。
彼女が右手で俺の手の甲に触れる。
するとそこに魔法陣の様な物が浮かび上がった。
「おお!?」
魔法的な何かを見せられ、思わず声が漏れる。
まあさっきの印字も魔法何だろうが、如何せん地味すぎてぴんと来なかった。
これぞまさに魔法だ。
「……あれ?」
受付のお姉さんが眉根を顰める。
どうかしたのだろうか?
はっ!?
まさか偉大な勇者や、英雄と出て驚いているのかもしれない!
何せ神に選ばれて転生している訳だからな。
神々の戦士的な何かが表示されてもおかしくは無いだろう。
「もう一度、失礼しますね」
彼女が再び手の甲に触れ、魔法陣が浮かび上がる。
だがやはり眉根は顰めたままだ。
「やはり変わりませんね」
彼女が紙に手を翳すと、俺の名前の下に文字が浮かび上がる。
職業:焼き肉のタレ
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なんでやねん。
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