第2話 土下座を超える土下座。その名も

異世界と言えば何か?

そう!冒険者だ!


転生して来た世界には冒険者が存在している。

俺はその事を周囲の人間に確認していた。


幸い、転生の際この世界の言語は習得させて貰えている様で、現地人とのコミュニケーションは問題なく取る事が出来ている。

与えられたチート能力が焼き肉のタレを出すというゴミなのに、更に言葉が通じない様なら完全にゲームオーバーだった所だ。


その時は素直に死のうかと思っていたが、少しだけ頑張って生きて見ようと思う。


「ここがギルドか」


扉の横に木板の看板が掛けられ、そこには剣と盾が交差する様に描かれていた。

冒険者ギルドを示す看板だ。

因みに、此処に来る途中で見た装備屋の看板も全く同じものだった。


お陰で間違って武器屋のおっさんに、ギルドに入りたいと宣言して余計な恥をかくはめになってしまった。

ちゃんと分けとけよ、紛らわしい。


「ま、冷静に考えたらあんな小さな建物の訳はないよな」


何せ天下の冒険者ギルドだ。

冷静に考えれば一軒家に毛の生えたような建物の訳が無かった。


目の前の建物は広く大きな2階建ての建物となっている。

その造りも周りの建物よりしっかりしている様に見えた。

まあ単にバイアスがかかってるだけな気もしないが、俺はその立派な2枚扉を手で押して中に入………


あれ?びくともしないぞ?


「閉まってる?いやそんな訳ないよな」


一瞬休みかとも思ったが、区役所じゃあるまいしギルドに定休日なんて有る訳がない。

冒険者ギルドなんて物はブラックが相場だ。


「くそっ!?開け!!」


俺は両手を使って全力で押すがやはりびくともしない。

押しても駄目なら引いてみなの精神で、今度は取ってを掴んで引いて見るがそれでもやはり駄目だった。


なんて堅牢な入り口だ……

そう言えば某少年漫画では、とんでもない重量の扉を開ける事が中に入る資格だった事を思い出す。

どうやらこの扉もそれと同じ仕様の様だ。


「冒険者になりたければ俺を動かして見せろ」そう扉に問われた気がする。


「良いぜ。あけてやろうじゃねぇか。冒険者への扉って奴をよ!」


両手にぷっぷと唾をかけ、気合を入れてドアノブを掴む――いや、掴もうとした途端扉が勝手に動いた。

ガラガラと音を立てて、横へスライドする形で。


……どうやら引き戸だった様だ。


中から出て来た目つきの悪い女性が俺を訝し気に見て来る。

まあ扉の前で騒いでいたら、不審人物以外の何物でもないからな。

俺は口笛を吹きながら、何事も無かったかの様に自然な感じで女性の横を抜けて中に入った。


引き戸を両扉で作んなよな!

糞がっ!


中に入るとカウンターが三つ並んでいる。

その横には二階へ上がる階段があった。

取り敢えず、俺は一番大きな胸の受付がいるカウンターへと向かう。


乳トンの万有引力と言う奴だ。


「すいません、冒険者になりたいのですが」


「畏まりました。身分証の提示をお願いします」


「……」


えぇ……文明レベル低いくせに身分証なんか求めるのかよ……

当然そんな物は持っていない。

焼き肉のタレ出したらパスさせてくれるかな?


「えっと、お忘れでしたら登録の方はちょっと……って、ええ!?」


俺は黙ってその場で土下座する。

音もなく静かに、滑る様な滑らかな動きで。


「住所不定!21歳!身分証はありませんがお願いします!俺はどうしても冒険者になりたいんです!」


さあ!どうだ!

人目も気にせず繰り出される俺の土下座は!

グゥの音もでまい!

だから身分証の審査はパスでお願いします!


首を上げ、俺を上から覗き込むお姉さんに熱い眼差しを送る。

だが受付のおねぇさんはおろおろしながら困りますとしか言ってくれなかった。

あと一押し、何かが足りない様だ。


どうすれば……そんな事を考えていると、背後から声をかけられた。


「へっ。まだまだ甘いな、坊主」


振り返ると、ヒグマの様な筋肉塗れの大男が立っていた。

頭はモヒカン。

顎には豊かな髭を蓄えたその姿は、格闘ゲームの赤きサイクロンを彷彿とさせる。


間違い探しに困る程クリソツだ。

大きな違いがあるとすれば、それは男の羽織るマントとブーメランパンツの色が青だと言う事ぐらいだ。


それも2Pカラーと考えれば誤差だろう。


「この青きタイフーン事、ピクミン様が真の土下座という物を教えてやろう!」


二つ名もニアピン状態。

但し名前だけは糞雑魚ナメクジ的な物だった。


「ふん!」


男は片膝を軽く上げる形で小さく飛び跳ね、そして着地と同時に床を地面に擦り付けた。

それは土下座を超える土下座。

正に土下座の大様、ジャンピング土下座だった。


俺はその見事な姿に思ず見惚れてしまう。


「どうか違約金だけは勘弁してくれ!!」


これが俺と、宿命のライバルとなるピクミンとの出会いだった。

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