第4話 星の恩寵

「もう一度、聞こうか?私は冗談が嫌いだから、ふざけないで、ちゃんと話して」


「…ええ、ですから、半年後の皆既月食に、僕を殺してください」


…呆れた、自殺の道具に、私を使おうなんて。

生きるのに藻掻かないのは、生物として間違っている、こんなのは到底、私は認めることが出来ない。

生きたくても生きれない人が、たくさん居たのに。

へらへらとこの男は何を!


「…なんで?」

勿論私なら、たぶんこの男を仕留めきれるだろう。きっと。

だが納得できないし、私の後味が悪いのもある。自殺の手助けなんて、してやれない。納得できない理由なら、ひっぱたいて大陸の端まで飛ばしてやる。


ふむ、とカグヤは考えていたけど、ようやっと口を開いた。

「それは、僕が自分の意思では死ねないからなのです」

「死ねない?」

「先ほどお見せした通り、僕には強い恩寵があります。天使様、恩寵、その由来をご存じで?」

「…もちろん知ってる。たくさん戦ってきたし、私が居た祖国では研究もされていた」

恩寵、一言でそれを表すのならば、星の意思だ。

それに、私や皆の仇敵として世界に現れた日のことを思い出す。

かつてこの世界を作り、お隠れになった神はひたすら分化し、進化し続けることを創造物に臨んだ。

だから昔は、言語も文化も生態も、何もかもが魂の段階で別たれ、それ故に諍いも止まず、常に大陸には多くの血が流れていた。

…それを私たちは、止めたくて。


「その通り、かつて偉大なる統一帝国が肉体のみならず、融合の術を用いて世界を循環する魂までもを画一化しようとしたとき、僕たち恩寵持ちが世界に出現し、止めようとしたわけです。勿論僕は生まれてすらいませんが」


「私が起こされた時に星教はもう、滅んだとヒイロから聞いたわ」

「その通り、滅びました。十年前にですが」

「え!ついこの前じゃない⁉」


十年前、ほんとにこないだのことじゃないか。

度々起こされては、私たちの国の意志を継ぎたいとかいう良い志の持ち主たちにたまに知恵を与えていたけど、今みたいにずっと起きるようになったのは七、八年前だし、ぼーっとしてて大臣たちの話も聞いていなかったから星教がつい最近まで存続していたなんて想像だにしなかった。


…ひたむきに星の声を聴いていた彼らを、私たちは相いれない存在ではあったけど、敬意を持って殺し合っていた日々が懐かしい。


「まあ、それはいい。それで、どうして死ねないの?」

「あーそれがですね。十年前に恩寵持ちが集う国、私の故国ですが、それがこの国に攻め落とされまして。一斉に恩寵持ちは処刑されて、今では片手でも足りてしまうほどに、恩寵持ちは少なくなりました」


「それはおかしい。恩寵持ちはまた、生まれてくるはず」

「彼らの願いが、混ざりものの魂に帰ることを拒み、最後の一人に宿りました。結果、その一人にはもはや、星の恩寵と言えるほどの力が宿っています」

「…それが、貴様か。意志と力の継承は、私たちの国が開発し、捨てた魔法にあったものだ。まさか、恩寵持ちがそれを行ったというのか」

「はい、その通りです。結果として僕は、死ねない体に無尽蔵な魔力、そして途方もない恨みや怒りを抱えてしまう者になりました。彼らが囁くのです、星の意思を実行せよと」


ため息混じりに、カグヤは語った。正直私は、意志と力の継承を今、それも不特定多数で使った星教の人間たちに戦慄してしまった。


「なら何故、今にも暴れださないの?正気を保てる魔法では、ないはずだ」


「僕のもともと持っていた恩寵と、ある方の協力で、それを抑えているのです。ですが、力や意志は強まるばかりで、止めるのも難しくなってきたので、」


意志と力の継承は、生きている人間に、死にゆくものを取り込ませることで、力を増す魔法だけど、心の強さを上げる手段は無かった。

だから多くの人が目先の力を求めて、苦しんでいった危険な魔法で、封印されていたもののはず。

それを、星教の末裔たちが使ってしまうなんて。

お父様、これは私たちの罪なのでしょうか、そうなら、私は


「どうか、天使様、僕を殺してください」



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