第3話 願い

「はは、天使様、そんなに急がずとも菓子は無くなりはしませんから」

「…むぐうう」

「のどに詰まらせては大変ですよ、さあこちらを」

あまりにもがっつきすぎたためだろうか、のどにドーナツを詰まらせかけた私にカグヤがジュースのお代わりをどこからともなく取り出し、渡してきたので、息が止まる前に鮮やかな色のジュースを飲み干す。一息で飲んでしまったから、ジュースに対する申し訳無さまで湧いてきてしまった。

…結局、私は誘惑に負けてこの有様なのである。この国の偉い人にペコペコ頭を下げられてもすまし顔なんてしているけれども、その実態は出会って十分もしないうちに得体の知れない男とお茶会と洒落こむ体たらくだ。

しかし、食べきったら終わりではない。食べても食べても尽きることなく新たな菓子が姿を現すのでお手上げだ、私は悪くない。

昔に同化した魔物に大喰らいが居たからそう、仕方がないことなのだ。

…しかし、数十分と食べ続ける姿を見られ続けるのも気まずいので、仕方がなく、カグヤに話を振ってみることにしよう。


「おや、手が止まりましたがもうお腹がいっぱいになりましたか?まだ西の都の名物の竜の卵のプリンもありますよ?」

「けふ、それは話の後で食べる。単刀直入に聞くから。それで、貴方の本当の用事は一体何なのかしら?ただの世話係にはそれほどの力はいらないし、むしろ邪魔なはず。何かこの場所、私に会いに来た目的があるのでしょう?菓子の礼とは言わないけれど、些末なことであるのならば叶えよう」

「!それはうれしい言葉ですね」

その言葉に、ここまで取り繕っていた男の、かすかな変化が生まれたことが分かった。今までおくびにも出さなかった彼本来の感情が眼差しに強く出ている。

前の戦争のときにも存在しなかったほどの強い寵愛を得ている得体の知れない男のしっぽを私は遂に捕らえたのだ。

ふ、やはり人間というのは底が浅い様である。私だって伊達に長く生きているわけではないのだ。

ははーん、この男の様子を見るにかつて罪を犯した罪人とか、危険人物であるのだろう。大方、刻まれた呪いを解いてほしいとか、昔大戦争で使っていた禁呪相当の魔術を教えてほしいとかそんな所だろう。


…私がたびたび眠りから起こされ、国の名前が変わっただの王が変わっただので周囲に傅く人間の顔ぶれが変わったとしても、彼らが私に求めるものは何時だって変わり映えしないのだ。力を、人を傷つけてでも支配できる力を、下さいと頭を垂れるのだ。私は断ることもなく、与えてきた。

いつもと変わらない、愚かで救いがたい、愛すべき人間。

「…なんだ、願いは無いの?」

だけど、男の、カグヤの願いは今までの者とはまるで毛色が違っていた。

「…それでは、改めて申し上げます天使様、お願いがあります。それは、---」


…それは、私に叶えることが出来るかわからないということまで含めてだ。



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