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とたんに、勇者の後ろにいた少年が、騒々しく声をあげた。
「さっさと馬に乗った、乗った」
思わず少年の肩をつかんで叫んだ。
「今、話をしようとしているところだ」
少年はこちらを振り向いた。でも、その目は自分を見ていない。中空に向けられている。
「勇者と話をさせろ」
そう言ってみた。
少年の目が、心なしかこちらを向いた気がした。ところが……。
「さっさと馬に乗った、乗った」
会話にならない。
そうこうするうち、勇者はすでに馬にまたがっていた。
「あ、待て」
力が抜けた瞬間、少年はするりと駆け出して、馬車に飛び乗った。
一行の旅立ちに、群衆がどよめく。
どっと押し寄せてくる人の波に飲み込まれそうになった。
人波にもまれながら感じる。
ああ、そうか。所詮、自分はこの大勢のひとりだ。
この群衆と一緒になって、勇者一行を称え、また魔将の圧政にあえいで、勇者が来るのをずっと待ち続けるんだろう。
でも、さっきからこの頭に渦巻く気持ちはなんだろう。
なんで自分ひとりだけが、こんな思いに苛まれているんだろう。
このまま、何が起きているのか、なぜなのかわからないままで、村人たちと一緒に過ごすことなんてできるだろうか。
いや。
無理だ。
できない。
身体の中から、先へ行けとなにかがこみあげてきて、手足を突き動かす。
集まって来る群衆をかきわけて進み、ようやく先頭に立つ。
「僕を連れて行け」
そう叫ぶと、勇者の馬が足を停めた。
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