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 小柄な勇者は、ゆっくりと顔を上げて、まじまじとこちらを見つめてきた。

「初めてこの村を通ったときに会った、この村の人だな」

 答えが返ってきた。

 黒い鎧の男が行く手に立ちふさがり、腰の剣に手をかけた。

 それ以上前に進むのはあきらめ、大声で、本当に訊きたかったことをたずねる。

「あんたはどこからやって来たんだ」

 勇者の顔に、ほんの一瞬、戸惑いの表情が浮かぶ。

「勇者様と呼べよ」

 勇者の後ろから少年が声を投げかける。型どおりの言葉だ。

 ところが、勇者の方は、自分の言葉を受け止めて、何かを考え始めた。

 他の村人とは違う。決められた原則通りの反応じゃないし、反応を停止した状態とも違う。

 少しの間待ってから、もう一度たずねてみた。

「あんたはどこから来て、どこへ行くんだ」


「俺は……」

 ふいに、勇者が声を上げた。苦しげな表情が顔に浮かんでいる。

 その先を言いよどんでいる。


 耐え切れずに、こちらから問いを重ねた。

「僕はこれまで、数限りなく、あんたのような連中と、この村で、同じような道案内の会話をしてきた。そして、そのあとは、魔将を倒したと聞いて、こうやって集まり、騒いできた。ついさっき、そのことを思い出したんだ。これはどういうことだ」

 勇者はようやく重い口を開いた。

「俺は、こことは違う世界から来た」

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