第8話 池田屋にて、再会

 元治元年六月


 京は湿気が多いため、夜になっても暑さが残る。

 だが、蒸されているような暑さの中、その部屋の主である土方は顔色一つ変えていなかった。

「首尾はどうだ、山崎」

 スッ…と襖が開く。地味な色の着流しを纏った山崎が音も無く副長室へ滑り込んだ。

「いくつか目星はつきましたが……」

 報告に耳を傾ける土方の表情は険しい。しばらくの沈黙の後、煙管から吐き出した煙と共に呟いた。

「桝屋喜右衛門……少し叩いてみるか」


――――――…


「斎藤さん。暑いです」

「これで七回目だ。ほかに言うことはないのか」


「斎藤さん」

「何だ」


「夏ですね」

「……そうだな」


 小夜と斎藤は中庭に面する縁側にいた。二人の間にはタマが我が物顔で寝そべっている。

「暑さでお腹を壊した人が多くて困ってるって、烝くんから聞きました」

「あぁ。うちの隊からも体調不良者が出ている」

「じゃあ。しばらく討ち入りとかはできないですよね」

 つまり新撰組は今、万全な状態ではないということだ。

 でも、こんなに暑いんだから浪士達もじっとしててくれるといいんだけど。

「いや、あるかもしれん。先程、新八さんが五寸釘を持って倉へ行くのを見た」

「釘?」

 釘と討ち入りがどう関係するの?

 首を傾げたが、斎藤がこれ以上話す様子はなさそうだ。

 斎藤さんは、元々あんまり喋らない。でも気詰まりな感じはしなくて、隣にいると落ち着く。烝くんと一緒にいる感覚に近いかもしれない。

「あ~、やっぱりここにいた」

「っ……」

 安心しきっていた体がハッと強ばる。聞こえてきたのは今、最も苦手な人の声。

「一くん。仲良くしてるとこ悪いけど、土方さんがお呼びですよ」

「俺だけか」

「幹部全員です。あ、秋月くんも後で呼ばれるかもしれませんよ」

「え?」

「多分、ね」

 沖田の笑顔に不穏なものが混じっている。本当に今日は何か起こるんだろうか。

 斎藤は無言で土方の部屋へ行ってしまった。だが、同じく土方に呼ばれているはずの沖田は何故か縁側から立ち去ろうとしない。

「……」

「……」

 沖田さんも早く行ってよ……

 春の花見から、沖田とはなるべく近づかないようにしている。

 沖田さんは、私が新撰組に害を為すんじゃないかと疑っていて、私は、沖田さんに疑われてるって思うと、自分でもよくわからないけどすごく悲しい気持ちになる。

「ケホッ、ケホゴホッ……」

「?」

 顔を上げると沖田が、妙に息苦しそうに咳をしていた。

 もしかして、沖田さんも具合が悪いのかな

「沖田さ……「ケホッ……何、ですか?」

 咳が収まると何事も無かったかのように、にっこりと微笑んだ。

「っ」

 その笑顔を見た途端、小夜は視線を逸らせた。

 沖田さんに疑われるのは、悲しいだけじゃない。

 沖田さんが、怖い……

 悲しみを通り越して恐ろしささえ感じる理由は彼の笑顔。顔は笑ってるのに目が笑ってない。

 それに気付いたのも花見の後だ。

 自分に向けられる眼差しが、疑惑と冷たさを孕んでいることに気付いてしまえば、もう視線の交わりさえ恐怖だった。

「な、何でもありません」

「ふぅん。じゃ、私は行きますね」

 沖田は振り返ることも無く立ち去った。

「……」

 夏の日射しは相変わらず強烈なのに、擦り寄ってくるタマの体温に安心する。抱えた膝に額を付けてタマのぬくもりだけを感じていた。


 その日の夕方、隊士全員に召集がかかった。隣に座るサブに耳打ちする。

「何かあったの?」

「うーん何か捕まえたんだって」

 全く要領を得ない。サブも詳しいことは知らないらしい。

 近藤が前に進み出ると、ざわついていた部屋が一瞬で静かになった。

「我々は長州に与する者を捕らえ、その男から重大な情報を得た」

 男の名は古高俊太郎。桝屋喜衛門の名で薪炭商を営みながら、京に潜伏する勤王派の活動を手助けしていた。その古高から、恐ろしい計画を聞き出したのだ。

『近日中、強風の日に京の町へ火を放ち、京都守護職の松平容保公を暗殺。そのまま御所へ入り孝明天皇を長州へ連れ去る』

 隊士達は騒然となり、小夜は唖然とした。

 何その無茶苦茶な計画。暗殺に無関係な人を巻き込むなんて、まるで素人だ。

 討幕派には暗殺の上手な人がいないのかなぁ

「これは一刻の猶予もならん」

「勤王派の連中は今夜、古高救出の為に会合を開くはずだ。そこを押さえ奴らを一網打尽にする!」

だが動ける隊士は五十名弱しかいない。総長の山南まで体調不良を訴え、今も自室で休んでいる。

「人手が足りんな……」

「会津藩と所司代に応援を要請した。ま、あいつらがちゃんと来ればの話だがな」

 新撰組は隊を二つに分け、別方向から勤王派の会合場所を探索することになった。近藤は十人。土方は二十四人を率いていく。

 小夜は、斎藤やサブと同じ土方隊に属することになった。

「動ける隊士は僅かだ。その分、各々がより気を引き締めてかかるように!」

 解散の声と共に隊士達は動き始める。

「……あ」

 広間を出ようとした時に、また咳をしている沖田を見かけた。軽い咳だが中々止まらないようで胸を押さえるように咳をしている。

 沖田さん、大丈夫なんだろうか。それに、なんだか顔色も悪い気がする。

 思わず声をかけようとしたのだが、

「……」

 私、何してるんだろ。私のことを疑っている人の心配なんてして。沖田さんからすればきっといい迷惑だよね。

 小夜は不安を振り切るように足早に広間を出た。


――――――…


暮れ四ツ(夜10時)


 近藤隊は、三条通りにある旅籠の裏で息を潜めていた。

 来客を拒むように戸は閉じられ、中からは激しく議論するような声が微かに漏れ聞こえてくる。

「此処だったか……」

 旅籠の名は池田屋。山崎が可能性の高い会合場所として挙げていた旅籠だ。

「近藤さん。土方さん達を待った方がいいんじゃねぇか?思ったより人数が多そうだ。さすがに十人で斬り込むのは無謀だぜ?」

「うむ……」

 沖田は、抑えた声で話す永倉と近藤から少し離れて立っていた。

―――身体が熱い

 気温のせいだけでは無いことは、薄々わかっていた。

 また風邪か

 実は春頃から時折、体がだるくなることがあったが、正直あまり気に留めていなかった。だが昼間、自分を心配そうに見つめる小夜の顔が頭を過る。

 この期に及んで私の心配なんて、やっぱり変な子ですねぇ

「総司」

「どうかしましたか?近藤さん」

「少し顔色が悪いんじゃないか?今夜は随分と蒸し暑いし、体調が悪いなら……」

「いやだなぁ。一番隊の組長が、誰も斬らずに屯所に帰るなんて出来ませんよ」

 近藤さんにも見抜かれていたなんて。慌てて笑顔を浮かべてみせる。

「相変わらず物騒な言い回しをしやがるなぁお前は」

 沖田の言葉を聞いた永倉が苦笑した。

 別に人を斬るのが好きなわけじゃない。

 剣術が、好きなんだ。

 人を斬るよりも、剣を振るっている意識の方が勝っていた。

 誰にも負けたくない。

 剣を極めたい。

 私が強くなれば、新撰組のみんなの敵も減って一石二鳥ですしね。

 江戸でも京でも、私が剣を振る理由は変わってない。ただ、負けた時に失うものが違うだけだ。

 道場では一本。真剣なら命。

 ま、木刀でも真剣でも、私は負けたりしませんけどね。

「トシ達を待つか、我々だけで踏み込むか……」

 近藤は腕組みをして唸っている。本当は今すぐにでも踏み込みたいが、味方は十人しかいない。隊を率いる身として無駄死には出したくないと思っているのだろう。

 だけど、近藤さんならきっと、皆の力を信じて踏み込むはずだ。

 沖田は長年追い慕っている大きな背中を見ながら、その決断を待っていた。


「池田屋だと!?!」

 土方隊に「会合場所は池田屋」という知らせが届いた。

「藩兵はそっちに行ってんだろうな!?」

「いえ……しかし局長は、自分達だけで踏み込むと……」

 あまりの剣幕に、伝令役の隊士は己に非があるかのように縮こまってしまう。

 土方は連れていた隊士達へ振り返った。

「池田屋へ向かうぞ!!」

 遠くからは祇園の祭囃子が聞こえてくる。だが彼らにまとわりつくのは武骨な具足の音。夜道にはためくは浅葱色。

 小夜は走りながらもどかしさを感じていた。

 絶対、上を通った方が速いのに。

 でも普通の人には通れないし、どうしよう。

 今頃、近藤さん達は命懸けで戦ってるはず。もし池田屋にいる誰かに何かあったら……

 そう思ったら我慢ができなくなった。

「土方さん」

「何だ」

「僕、皆さんよりも早く池田屋へ行けます。だから先行させてください」

「近道でもあるってのか」

「はい。でもそこ、皆さんが通るわけにはいかないんです」

 小夜の言葉を聞いた土方の目が訝しげに細められた。

 ……言わなきゃ良かったかな

 少しでも早く池田屋へ行くべきだと思って口を出したのだが、どうやら不審に思われてしまったらしい。

『私は秋月くんのことを信用していないってことです』

 また疑われるのは嫌だ。家にいた時には、人に疑われて苦になったことなんて無かったのに。

 だってみんな死ぬんだから。

 他人に自分を信じてもらえないことが悲しいなんて、もしかして私、弱くなってる…?

 新撰組のみんなのことも剣も好きだけど、代わりに私の心は弱くなっちゃったのかもしれない。

「ま、仕方ねぇな」

「へ?」

「俺達も池田屋へ向かっているとしっかり近藤さんに伝えてくれ」

「っ、はい」

「頼んだぞ」

 ……『頼んだぞ』だって。私、頼まれたんだ。

 言葉こそ短いが、土方の一言は小夜の心に真っ直ぐ響いた。自分の中にあったモヤモヤした気持ちが鎮まっていく。

 気を引き締め、小夜は一人隊から離れた。

 整然と区画された京の町。大抵の裏道や抜け道は巡察の関係で把握している。俺達が知らない道がどこかにあるのだろうか?

 不思議に思った土方が振り返ると闇の中、家屋の屋根から屋根へ猫のような身のこなしで伝い走って行く小夜の姿が見えた。

 あれは確かに俺達には無理なわけだ。

 表情に不審ではなく苦笑を浮かべてから前に向き直った。

 走る。走る。ただひたすら、池田屋を目指して。


「会津藩お預かり新撰組、御用改めである」

 近藤の姿を見た池田屋の主は、血相を変えて階段の方へ走り出した。

「お客様!御用改めにございます!」

「決まりだな」

 二階から、何事かと顔を出した男の顔が凍りついた。

「新撰組だ!!」

 階段から無数の足音が響いてくる。

「行くぞッ!」

 近藤が先頭を行って踏み込み、その勇ましい背中に沖田達が続く。

 池田屋は、たちまち大混乱に陥った。

 階下に降りて戦う者、二階の窓から逃げる者。池田屋の内外で刀を打ち合わせる音が響く。

「うぉぉぉお!!」

「はっ」

――――ズシャァッ

「ぎゃあああああ!」

 刃が二転三転する度に血飛沫と悲鳴が上がった。浴びた返り血を気にすることもなく、沖田はひたすら奥へと進む。

――――ズバッ

「おっと」

「死ねぇぇぇっ!」

 突然開いた襖から敵が雪崩出てきた。意識全てが剣に集中していく。一人血にまみれ白刃を振るい続ける姿はまるで、獲物を見つけた飢える狼のようにも見えた。

 ほどなく、沖田は自分の周りの敵を一掃した。

「総司は上を!」

 近藤の声に応え、階段を駆け上がる。まだ大して動いていないのに妙に息苦しい。血の匂いがする蒸し暑い空気のせいか、それとも……

 どこから敵が飛び出しても対処できるよう、抜き身の刀を携えたまま進む。

「……?」

 静かすぎる。

 階下の争う音は二階に居ても聞こえるのに、ここの座敷からは物音一つ聞こえてこない。刀を構えたまま、音を立てずに襖を開いた。

 そこには僅かな月明かりに照らされる、無数の血まみれの死体があった。

「……」

 動くものは何もない。座敷の中央には、長州の過激派とされていた者達が既に骸と化していた。

 ……?

 何か、おかしい。

 座敷には争った形跡が全くなかった。彼らが刀を抜いていた様子もない。彼らはネジの切れた絡繰り人形の如く、その場に突っ伏す格好で、喉を切り裂かれて死んでいた。

 無抵抗な状態で殺されたのか?だが拘束された跡も無い。まさか自分達の喉に穴が開くまで相手の存在に気付かなかったとでもいうのだろうか?

 喉を、切り裂かれて……?

 脳裏に甦ったのは、数ヶ月前の花見の夜。血まみれの死体。蒼い瞳。

 でも、彼女は土方さん達と一緒にいるはず……

「新撰組か」

「―――!」

 月明かりの届かない暗がりから、長身の男が現れた。顔は暗くてよくわからないが、声の調子からすると自分とさほど変わらない歳だ。

「何者ですか?」

 私が、気配に気付かなかったなんて……

「おれはこいつらの始末を命じられていた。だが、あんたを殺すのはおれの仕事じゃない。死体を増やしたくなければ、刀はしまっておくんだな」

 まるでこの男より自分が弱いことが前提のような言い方だ。

「長州の人達と敵対しても、あなたが私達の敵でない証拠にはなりません。刀をしまうのが嫌だと言ったら?」

 男がいつ動いたのか、目視できなかった。相手の影が揺らいだ……と思った次の瞬間、男は背後におり、首筋には男の手が添えられていた。

 背筋を、冷たい汗が流れていく。ちらりと見えた男の手にはべっとりと血が付着していた。それに、この常人とは思えない動き。男の言っていた通り、彼らを殺したのはこの男なのだろう。

 男は威すように首筋に当てた手に力を込めてきたが、それに怯むことはせず後ろへ振り向きながら刀を横へ払った。

「ふっ」

 微かに笑った男が無傷のまま数歩下がる。その時、雲の加減で部屋に差し込む月光が男の顔を照らした。

「!」

 月明かりに浮かび上がったその瞳は、以前、花見で酒に酔った小夜が浪士を惨殺した時と同じ澄んだ蒼色をしていた。

「おれの名は秋月彼方。お前は新撰組の何て奴だ?」

 秋月、彼方……?

 その名前は、彼女の偽名と同じ。

「……新撰組、沖田総司」

「あぁ、あんたが新撰組の天才剣士か。噂は聞いている。おれと手合わせ願おう」

 男は刀を抜いた。その佇まい、迸るような殺気。

 この男、強い。

 刀を交えなくてもわかる。自分と同じくらいか、あるいは上か。

「望むところです」

 相手の正体はわからない。ただ、相当の使い手であることは感じる。身の内から沸き上がる闘志を隠すことなく、沖田は好戦的な笑みを浮かべた。


――――――…


「はぁっはぁっ、はぁ……ここ、か……」

 土方達と離れてから屋根伝いに走り続け、池田屋に到着した小夜は、息が整うのも待たず池田屋へと踏み込んだ。

「近藤局長!」

 灯りを消されたのか、中は暗い。それでも小夜の目は十分利いたし見えない場所からもあちこちから金属の打ち合う音や叫び、雄叫びが聞こえてくる。

「秋月君!?ということはトシ達はもうこっちに着いたのか!?」

「土方さん達はまだです。でも、みんな池田屋に向かっています!」

「そうか!知らせてくれて助かった!

 うぉぉりゃぁあぁ!」

――――ドシュッ

 近藤の力強い一太刀が、敵の胴を凪ぎ払った。

 小夜の参戦に気付いた敵が数人走り寄ってくる。

「死ねぇ新撰組ッ!」

 正面から突っ込んできた相手の刀を弾き、肩から腰まで長く斬り下げる。だが同時に背後から別の敵が斬りかかってきた。

「伏せろ」

「ギャアアアアアアッ」

 頭の上を刃が閃き、相手の腕から血しぶきが舞う。

「よう秋月。剣も様になってきたな」

「……どうも」

 振り返ると、すでに返り血をたっぷり浴びた永倉がいた。だが永倉自身も無傷ではないようで、左手からだらだらと血が流れている。ふと永倉の背後に目をやると、そこに倒れていたのは……

「と、藤堂さん?!」

 土間の奥に、藤堂が倒れていた。額から大量に流れる血で床が赤黒くなってしまっている。

「平助なら生きてる。それより総司の方に行ってやってくんねぇか?二階で一人なんだ」

 沖田さんか。あんまり会いたくないな。

 でも我が儘を言える状況じゃない。

「わかりました」

 そんな会話をしているうちにまた敵に囲まれたが二人は難なく包囲を突破した。そして小夜は二階へ、永倉はその場で刀を振るい続ける。

「永倉さん。下はお願いします」

「おう、任せろ!」

 小夜は階段を駆け上がり、座敷の襖を勢いよく開けた。

「沖田さん―――…!」

 座敷には無数の死体、沖田、そして沖田と刀を交える一人の男がいた。


キンッ―――キィンッ

 刃が交わる度にお互いの刀が悲鳴のような音を立てる。二人の実力はほぼ互角だった。だが、男が顔色ひとつ変えていないのに対し、沖田の息は上がり始めていた。

「噂通りの実力だな。"黒猫"であるおれに、ここまで渡り合えるとは」

「黒猫?」

「おれは強い奴と戦うのが好きだ。何故かわかるか?」

 男は、戦いの最中にもかかわらず愉快そうに笑った。

「強い奴と戦ってそいつに勝てばおれはその"強い奴"よりも強い男になれるからだ」

「……」

 ……彼は、面白い人かもしれない

 その時、パタパタと階段を駆け上がる音がして、勢い良く襖が開かれた。


「沖田さん―――…!」

 ほんの一瞬、沖田の目が小夜の方へ動いた。

「くっ!?」

 すると男は目にも止まらぬ速さで刀をくるりと回して逆手に持ち変え、柄で沖田のみずおちを打った。

 息が詰まり、痺れるような痛みが全身を走る。思わず身体をくの字に折った次の瞬間……

「――――ッ!?!」

 何かが奥からせり上がってくる。みずおちを打たれたからか。違う。これは、もっと別の……

―――抗えない

 理屈抜きでそう感じた。そして、

「ゲホッ…ゲホ、ガハッ……!!!」

 自分の意志とは無関係に、喉から生暖かい液体が溢れ出してきた。


――――ポタ、ポタタッ


「え……?」

 何、これ

 目の前には、刀を手にしたまま膝をついた沖田。彼の口元から滴っているのは……真っ赤な血。

 血を、吐いてる……

 何これ、何が起きてるの?!

「沖田さ……「こんなところで何をしている」

 目の前の光景に目を奪われていた小夜は、そこで初めて男の正体に気が付いた。

「なっ!?」

 何で、こんな所にこの人が

「問うているのはおれだ」

 小夜は青ざめた顔で後退ったが、男は逆に追い詰めるように歩み寄ってくる。だがその時、冷たい鉄の感触が男の足に触れた。

 ほぼ倒れ込んだような状態で、口の端から血を流しながら、沖田が男の足首に刃を押し付けていた。

「その子、ゲホッ……震えてるじゃ…ないですか……。あなたは、一体……何者なんですか?」

 その時、小夜が震えながら口を開いた。

「あ、兄上……」

 兄?

 無言で沖田を見下ろしていた男は、

――――ガツッ

「うっ!」

 容赦なく沖田の脇腹に蹴りを入れた。

「沖田さん!」

「こいつはおれの妹だ。どうしようとおれの勝手だろう」

 頭上から男……小夜の兄、秋月彼方の冷たい声が降る。

「く、ゲホッ……はぁ、はぁっ、……」

――――苦しい

 まるで肺の中で、空気が暴れてるようだった。既に戦える状態ではなく、沖田の意識が途絶えかける。


「久しぶりだな、小夜」

 彼方は、自分を睨む小夜を見てつまらなさそうな顔をした。

「殺してはいない。本気は出さなかったが[蒼猫]を使っているおれに、あそこまで立ち回れるとは大した男だ。

 家を出たとは聞いていたが、まさか新撰組の隊士とはな」

「兄上は、どうして、こんな所に」

 彼方は四年前、突然家を出て行き、それからずっと音沙汰が無かった。妹の自分が家を継ぐことになっていたのも、長男の彼方が行方不明になったからだった。

「家を出た後は、独立して"仕事"をしている」

「……」

 小夜は刀の柄に手を伸ばしていた。それに気付いた彼方は薄く笑う。

「お前も鉄の棒切れを振り回すようになったのか。数年ぶりの再会で、実の兄に刃を向けるつもりか?」

「今さら何を」

 家にいた頃から、自分と彼方の間に兄妹の情など存在しない。

「ふん。[流拳]ですらおれに適わないお前が、刀で勝てるわけないだろう。

 ……久しぶりに遊んでやるよ」

 しばらく睨み合い、小夜は刀から手を放した。呼吸を静め目を閉じる。再び目を開いた時、小夜の瞳は彼方と同じ蒼色に輝いていた。


「弱くなったな、小夜」

「っ、っ……」

 両腕を彼方の片腕一本にまとめられ、さらに壁に押し付けられているせいで身動きが取れない。いくら力を込めても、彼方の腕から逃れることはできなかった。

 勝てない……

 家にいた頃から兄上に勝ったことなんて無かったけど、ここまで力の差はなかったはずなのに

「お前はおれが家を出た四年前から全く成長していない。寧ろ弱くなっている。何故かわかるか?」

「……わかんない」

「仲間ができたからだ」

「え?」

「仲間に頼ることで強くなる奴もいれば弱くなる奴もいる。おれ達は闇に生まれ闇に生きる孤高の一族。光の中にいる人間とは相容れない。お前は闇の中で一瞬光を見かけて目が眩み、惑わされているだけだ。

 おれ達にとって仲間に頼ることは弱さを招く。その証拠に、今のお前はおれに手も足も出ない」

 彼方の言葉に小夜の表情が歪む。

 私は……

 私は、みんなと一緒には生きられないの……?

 彼方は小夜の羽織を掴むと無造作に放り投げた。

「きゃぁっ!」

 細身の体型に似合わぬ彼方の異常な腕力によって、小夜の小柄な身体は宙を飛び、ちょうど沖田のすぐ隣に落ちた。

「ぅ……」

 体勢を立て直す暇もなく、顎を掴まれ上向かされる。

「小夜。お前が進めるのは暗殺者として生きる道だけだ」

「く、ぅ……」

 手を剥がそうとしてもびくともしない。歯を食い縛る小夜に、彼方が口角を吊り上げた時……

――――ふわり

 不意に彼方の手から解放された。気付けば目の前には沖田の背中があった。

「まだ動けたか」

 喉元に突き付けられた沖田の刀を気にする様子も無く彼方は笑い、そのまま背を向けた。

「どういう、つもりです……?」

「おれの仕事は長州人の始末だ。"黒猫"は無駄な殺しをしない。

 小夜。おれの言葉をよく考えろ。いくら仲間ごっこをしたところで、お前が秋月一族であることに変わりはない。じゃあな」

 彼方は、ひらりと窓から身を躍らせて闇の中へ消えた。

 彼方が去ると、沖田は再び力無く膝をついた。

「沖田さん、どうしたんですか?さっきの……」

 口から血を流していた。今も胸の辺りが血で赤黒く染まっている。

「……私は、大丈夫ですから」

「っ」

 自分が[蒼猫]を使ったままだったことに気付き、咄嗟に目を逸らせた。

 兄と同じ蒼い目を見られたくなかった。特に、沖田には。

 [蒼猫]を解いてから再び沖田に向き直る、と同時に……

――――どさっ

 沖田の身体が支えを無くしたように床へ倒れた。

「お、沖田さん!?……うっ」

 強い吐き気と眩暈が小夜を襲った。

 "力"を使い過ぎたのか、反動がきつい……

「うぅ……」

 そのまま小夜の意識は闇へ落ちていった。


 日付が変わった頃に、戦いは終わった。

 過激攘夷派の死者は六名。池田屋から逃げ出した連中も、後からやって来た会津藩兵や新撰組によって斬られ、または捕縛された。

 だが、新撰組の被害も大きい。一名の隊士が戦死し、二名が重傷を負っている。藤堂平助は命に別状は無かったものの額をざっくりと斬られ、永倉新八も左手を負傷した。

 そして、沖田総司が二階の座敷で気絶していた。味方が救援に駆け付けた時には、座敷内に敵の姿は無く、三番隊の秋月も一緒に倒れていたという。

 座敷内に敵がいなかったこと、昨晩はひどく蒸し暑かったことから中暑ではないかと周りは言った。

 新撰組に被害は出たものの、宮部鼎蔵や吉田稔麿等、過激派の大物を失った長州には大きな痛手となった。

 小夜の兄、秋月彼方が池田屋で始末した者も表向きは新撰組の戦果とされることになった。


 小夜は池田屋騒動の数日後、土方に呼び出された。

 部屋にいたのは土方、山南、沖田、斎藤。

「今さら追い出したりしねぇから、んな睨むなよ」

「……」

「池田屋で総司と戦った男は、お前の兄だと名乗ったらしいな」

 総司と渡り合うくらいだから相当な実力者だろう。長州の人間を狙っていたなら敵とは断定できないが、新撰組と敵対する可能性があるなら、早めに手を打たなければならない。

「四年前に家出した僕の兄です。でも、新撰組の敵にはならないと思います」

 小夜が偽名として使っている『彼方』とは兄の名だった。

「何故わかる?」

「兄上は自分を"黒猫"と言っていましたから」

「黒猫?」

「幕府の人達は、秋月一族のことをそう呼んでいるんです」

 闇に紛れ、音も無く獲物を狩る黒い猫―――……

 自分から"黒猫"と名乗ったから、今も彼方は幕府側についているのだろう。

「味方って感じでもありませんでしたけどね~」

「まぁ注意はしておくべきだろうな。

 あとそいつの目、青かったんだってな。お前ら、実は異国の血でも引いてんのか?」

「……」

 それは一番聞かれたくなかった質問だった。だけど、聞かれたからには答えなければならない。

 もう新撰組に来てから三回も"力"を使ってしまったんだから。

 一度目は冬の巡察。

 二度目は花見の夜。

 三度目は先日の池田屋。

「……秋月一族は、幕府の命を遂行するための"力"を持っているんです。『死域』って言葉、ご存じないですか?」

 皆が首を傾げる中、山南が指先で眼鏡を押し上げた。

「清の文献で見たことがあります。確か、肉体の極限を越えた先の状態を指す言葉では?」

「死域に辿り着いた肉体は身体能力が格段に上がります。本来であれば、長年辛く厳しい修行を積んで限界を超えた肉体に訪れるものです。

 でも、僕達に備わっている力の一つ[蒼猫]は、使用者の肉体を瞬間的、強制的に死域へ導く。名称の由来は……きっと、もうおわかりですよね。[力]を使用している間の瞳の色です」

 [蒼猫]を使えば目にも止まらぬ速さで動き、標的を一瞬で仕留めたり、自分が危機を回避できる。しかし、秋月一族には元々高い身体能力が備わっているため、[蒼猫]はあくまで緊急用の力とされ乱発できるものではない。

「ちょっと待て。極限の先ってのは、死、じゃねぇのか?」

「確かに死域を保ち続けると人間は死んでしまいます。強い力に代償は付き物ですから。普通の人間なら死域に居続けると死ぬ。でも、僕達は……お腹が減る」

「は?」

「猛烈にお腹が減るんです。使い終わったあとは、すごく疲れて動けなくなる」

 花見の後、山崎が慌てて勝手場へ向かったのは小夜の暴食を止めるためだった。結局間に合わなかったのだが。

「んな非現実な話を、鵜呑みにしろってのか?」

「信じなくてもいいです。……事実ですから」

 普通の人がこんな話をいきなり信じたら、それはお人好しすぎる。でも現実に小夜には[蒼猫]という能力があって、それは父や兄にも備わっている秋月一族の力だ。

「うーん。でも、花見の時から思ってたんですけど、素手であんなに人の身体をズタズタにできるものなんですか?」

花見の夜、小夜は素手で浪士の首を切り裂いた。その証拠に小夜の手は血まみれになっていたのだ。

「花見?何のことだ」

「こっちの話ですよ」

 沖田は笑顔で土方の言葉を受け流した。小夜の話を信じるとも信じないとも言わず、ただ、笑みを浮かべているだけだ。

 そういえば、あれから咳をするところを見てない。

 あの日だけ体調が悪かっただけなのかな……

 って私、また沖田さんの心配してる。私が心配したって、意味が無いのに

「それは、[爪]です」

 ギュッと拳を握ってから素早く開いた。すると小夜の爪はそれぞれ三寸ほど長く伸びていた。

 秋月一族には、凶器すら必要ない。時も場所も選ばず、身一つで、獲物を狩る。

(そうか、あの冬の巡察で……)

 一瞬で物音が止んだこと、小夜の手が血で汚れていたことに、斎藤は内心納得していた。

 斎藤は黙って口を挟まなかったが、沖田は合点がいったように、ぽんと手を叩いた。

「あ、じゃあ橘くんが死にかけた日の巡察。あれも君がやったんですねー」

「そう、です」

 サブが死んじゃう―――そう思ったら咄嗟に[蒼猫]を使っていた。初めて、人を殺す目的以外で[蒼猫]を使った。人を殺したのだから結果は同じだが、サブを助けようとしたことに変わりはない。

 自分は変わってきているのではないかという希望と、胸の奥を貫く彼方の言葉。そして目の前には、小夜の話を信じるか迷っている土方達。

 私の居場所は、やっぱり闇の中なのかな―――……

 唸り続ける土方達を残し、小夜は部屋を出た。そのまま縁側へ向かい、小さくなって膝を抱えていた。

―――もうダメだ。

 沖田さんは、これでもう絶対に私のことを疑いの目で見続けるはず。

 人を殺すための特別な力。そんなものがあると知ったら、私を新撰組を狙う刺客だと思っている沖田さんはさらに警戒心を抱くに決まってる。

 他の人……土方さん達だって私の話を完全には信じていなかったのに、何故沖田のことが気になるのかは自分でもわからなかった。

 花見以降、心のどこかでは、また前みたいに一緒にいられるようになれたらと思っていたけど……

 しかも兄上は[蒼猫]で沖田さんを傷つけた。弁解の余地なんてない。

「どうしたんですか?こんな所で」

「……」

 よりによってこんな時に。でも立ち去ってくれる気配はない。

「あれ?どうしてそんな悲しそうな顔をしているんですか?

 もしかして、土方さんか誰かからいじめられました?」

 小夜は、くすくすと笑う沖田と目を合わせないように俯いていた。

「どうして目を合わせてくれないんですか~?そんなに嫌われてるなんて知らなかったなぁ」

「なっ……」

 誰のせいでこんな気持ちになってると思ってるんだこの人は

 ……淋しいのは、私の方なのに

「やっと顔上げた」

「!」

 反論しようと顔を上げると、予想に反して柔らかな笑顔を浮かべる沖田がいて……だが咄嗟に目を逸らしてしまう。

 だって、沖田さんの笑顔は偽物だから。

「あ、池田屋ではお互い危ないとこでしたね。私としたことが、あんなのに遅れをとるなんて」

 ……そういえば、どうして沖田さんは私を背中に庇ってくれたんだろう。私を刺客だと疑ってるなら、兄上と私を一緒に斬っちゃえば良かったのに。

「沖田さん……あの時、どうして……」

「え?あぁ、だって仲間が斬られそうになってたら普通助けるでしょう?

 ね、小夜ちゃん」

「え……?」

 な、かま……?

「おっ、おき、沖田さ、ん。い、い、今……っ」

 口をぱくぱくさせている小夜を見て意地の悪い笑みを漏らす。

「どうかしましたか?小夜ちゃん」

 な、仲間って言った!しかも私のこと名前で呼んだ!

「本当に刺客だったら、今まで何度も誰かを手にかける機会はあったでしょう?あんな物騒な力を持っているなら尚更ですし、さっきみたいな話を正直に私達に打ち明けたりしてくれないでしょうし。

 それに本気で疑ってたら何も言わずに斬ってますから。だから私はもう小夜ちゃんのことを疑ったりしてませんよ」

 にっこりと笑う沖田。だけど……この笑顔は、本物なの……?

 小夜は無言で立ち上がった。

「……何を、しているんですか?」

 沖田が、そう聞きたくなるのも無理はなかった。

 小夜は沖田の正面に回り込むと、恐る恐る、という表現がぴったりな動作で沖田の顔を下から見上げていたのだ。まるで瞳の奥を覗きこもうとするかのように。

 小夜の意図に気付いた沖田はため息をついた。

「そんなに私の笑顔が信用出来ませんか?」

「……少し」

(まぁ、あんな言い方したんだし仕方ないですかね)

「それなら、もっと近くで見てください。私はもう、小夜ちゃんのこと信じてるんだから」

「っ!?」

 不意に沖田の腕に引き寄せられ、小夜は縁側に座っている彼の膝上で抱きかかえられるような体勢になっていた。沖田の吐息を頬に感じられるような距離に、小夜は怯えた猫のように身を固くした。

 でも、なんでだろう……その場から動くことができなかった。

 高く結われた髪と同じ、色素の薄い沖田さんの瞳。儚いくらい透き通っているのに、強い光を湛えた不思議な目だ。

 あんなに恐れていたのに目を逸らすことができない。

 腰に回された腕を振り払うことすら忘れ、小夜はひたすら固まっていた。

「どうですか?」

「え…と」

 ふんわりとした笑顔で促され、本来の目的を思い出した小夜は沖田の瞳を覗き込んだ。だがその瞳の奥から、いつもの冷たさは感じない。

 沖田さん、本当に笑ってるんだ

 じゃあ私、もう疑われてないってことだよね?仲間って思われてるんだよね?

 良かった……

「……総司」

「あ、一くん。どうかしました?」

「さ、斎藤さん!?」

 慌てて立ち上がろうとしたが、沖田は腕を離すどころか小夜の身体をさらに引き寄せた。

「さーよちゃん?どうして逃げるんですか?」

「逃げるとか逃げないとかの問題じゃないです!だ、だって……」

 我に帰ってみれば、幼子のように沖田の膝上に座り、腰には彼の腕が回されている。改めて見るともの凄い状況になっていたことに今更気付き、しどろもどろになって焦る小夜に沖田は益々嬉しそうな顔をした。

 斎藤は無言で歩み寄り、ベリベリと音を立てそうな勢いで沖田の手から小夜を引き剥がした。

「あー!何するんですかー!」

 慌てて斎藤の背後に避難した小夜を見て、沖田はお気に入りの玩具を取られた子どものような表情になった。

「俺の部下に、ふしだらなことをするな」

「いやだなぁ、今のは小夜ちゃんからお願いしてきたんですよ」

「ななな何を言ってるんですか!出任せ言わないでください!」

 理不尽な言い分に思わず斎藤の背から顔を出した。

「でも、私の目が見たかったんでしょ?」

「そ、それは……そう、ですけどっ……」

 しかし顔を出せば溢れんばかりの笑顔を浮かべた沖田がいて……

 小夜は語尾をモゴモゴさせながら再び斎藤の背中に隠れた。

「俺はともかく、山崎が見たら大変なことになるぞ」

「もう見ました。沖田さん、覚悟の方はできとります?」

 そこには、身体中から冷たい殺気を振りまく山崎の姿が。

 烝くん、言葉が地になってるし……


ドタバタドタバタ……


「……なぜ俺まで逃げねばならんのだ」

「鬼ごっこは大人数でやった方が楽しいからですよ~」

「背後からクナイが飛んでくる鬼ごっこなんて嫌です。

 沖田さんっ手、離してください!どうして僕が烝くんから逃げてるんですか!?」

 沖田は、顔を真っ赤にして抗議する小夜の手を引いて自分の傍に引き寄せた。

「小夜ちゃん。勘違いしないでくださいね?

 ここは、きみの居場所なんですよ」

 居場所……

 私の……?

 一瞬、時間が止まったような気がした。先程と同じ目が、すぐ目の前にある。小夜が口を開きかけた瞬間、

――――シュカァァンッ

 怒れる山崎の放ったクナイが二人の間を裂くように鼻先を飛び、壁に深々と突き刺さった。

 その後、土方の雷が落ちるまで彼らの追いかけっこは続いたのだった。

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