第3話  世界と認識 ひとつまみの探求

 時折、シロはクロに突拍子もない事を尋ねる。

「クロちゃん、世界って終わるの?」

クロは本に目を走らせながら、シロの質問に答える

「終わらない」

「なんで?」

「その前にあたし等が終わるから」

更にシロは答えを求める。

「終わるって?」

「死ぬ」

「死んだらどうなるの?」

クロは本をパタンッと閉じて、シロと向き合った。

「次の奴が生まれる。」

シロはクロの答えが気に入らないのか、更にクロに尋ねる。

「こうやってお話した事や、思い出は何処に行くの?」

「記録に残る」

間髪入れずクロは答える。

子供らしい苛立ちを隠せぬまま、シロはクロに怒りだした。

「全然っわかんない、答えになってない!!」

「落書き」

クロはシロを突き放す様に言う

「なんで落書きなの?関係ないじゃない!」

クロは頬杖を突きながら、シロの苛立ちを生暖かい目で見守った。

「この世界は落書きだらけなんだよ」

ツンっとそっぽを向いて、ふてくされながらシロは言い返す。

「意味わかんない」

シロの仕草が気に入ったのか、クロは楽しそうに会話を続ける。

「お前にも判る様、相当かみ砕いて言っているぞ。ならこういう解釈はどうだ?」


“世界は時間と記録の空間への堆積に対しての認識に依って構築されている。

時間とは過程であり、記録とは過程における一つの到達点、つまり結果だ。

記録の堆積がこの世界を形作っていると言っていい。

この堆積された時間と記録は、空間座標の変化によってその認識を変える。

人はこの記録を必要に応じて、記憶に置き換え過程とする。

そして更なる到達点を目指す事で、この世界は姿を変えていく。

重要なのは空間座標は固有であって、誰一人同じ座標に存在し得ないという事。

つまり、世界の認識は一つではない。終わりを確定する事なんて誰にも出来ない“


「・・・・もっとわかんない!!」

シロはとうとう癇癪を起してクロに飛びついた。

クロはクスクスと笑い、シロを抱き抱え言葉を紡ぐ。

「あたしにだってわからない」

じたばたするシロを押さえつける様に抱きしめて、クロは言葉を続ける

「どんなに素敵な詩も音楽も、認識が違えばただの落書きと雑音だ」

シロはクロを見上げて、次の言葉を待つが言葉は紡がれない。

シロは少し考えて、クロに尋ねた

「分からないなら落書き?」

クロはシロの頭を撫で、その問いに答えた。

「その通りだけど、ちょっと足りない」

クロの言葉に迷いなくシロは飛びついていく。

「ちょっと足りないが知りたい!」

クロは微笑みながら言葉を返した。

「その知りたいが必要なんだ」


 きっと、この世界は落書きに埋め尽くされた、意味の無い空間

終わる意味すら持たない無価値な虚空

だけど、シロならきっとその多くの落書きの意味を認識してくれるんだろうな・・・


・・・今はまだ言えない言葉は、自身の記憶に留めておく事にしよう。


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