第45話 8月26日 曇り

◇ PM1:00


 8月最後の金曜日。いつものようにカウンターに寄りかかり、シンはちらりと時計を見た。カウンターの上には、例のレアアイテム。

『…たまたま手に入っただけだ。わざわざ頼んで回してもらったわけじゃない』

 知らず、言い訳じみた言葉が心中に湧き上がる。


 まあいい。あいつが来たら、渡してやろう。どんな顔をするだろうか。

 いつか見せたあの笑顔をまた見せるだろうか。


        ***


◇ PM2:00


 そろそろ、来る時間か。今日は、昨日の湖への遠足の話を延々と聞かされるんだろうな。

「まったく、子どもってものはうんざりする」

 そう声に出して独りごちたが、口元には知らず笑みが浮かんでいた。

 俺も、昨日見た虹の話をしてやろうか。言ってたな、虹を見たことがあるか、と。いつか見てみたいと。羨ましがるだろうか。でも、あいつも見たかもしれないな、俺が見たあれと、同じ虹を。


 だが、1時間が過ぎ2時間が過ぎても、子どもは現れなかった。

『何かあったのか?』

 ふと不安が胸をよぎるが、即座にそれを打ち消した。

「…子どもなんて気まぐれだからな」

 今までだって、必ずしも1日おきに来ていたわけではない。もう飽きたのかもしれないし―そう思いながら、同時に、そんなことはあり得ないとも思う。


        ***


 結局その日、子どもは現れなかった。昨日は遠出ではしゃぎすぎて、今日は疲れてしまったのかもしれない。そうだ、きっとそれだ―また来週だな、ため息をついて、シンはレアアイテムのカプセルを机の引き出しにしまった。

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