第28話 8月17日 晴れ

◇ PM1:00


「おねえちゃん。相談があるんだけど…」

 仮眠から覚め、軽く食事を摂った後、今日の分、と、小遣いを渡したとき。珍しくレイの方から話しかけてきて、しかも相談と言われて、ミナは瞠目どうもくした。その様子をどう受け取ったのか、

「あの、ダメならいいんだけど…」

 慌てたように早口で言う子どもに、ミナはさら慌てた声で、

「ううん、ううん! いいのよ! 何でも言いなさい!」

 そう言って子どもの両肩をがっしりと掴んだ。


「クッキーを作りたいの?」

 子どもから告げられた相談にミナは再度瞠目し、レイはこくりと頷いた。

「おうちで、作れるんでしょ?」


        ***


 以前シンが、彼女が作ったんだ、余ったから食え、と、いくつか寄こした甘い菓子は、子どもに衝撃を起こさせた。

「こんなのが作れるなんて、すごいねえ!」

 滅多に見せない(いや、かつて見たことが無い)興奮を露わにした子どもの心からの言葉に、シンは喜びを通り越して驚愕した。

「クッキーくらいなら、家で作ってもそう珍しくないだろ?」

 眉を寄せて訝しげに言う彼に、レイは目を丸くした。

「そうなの? 、お母さんとミナはね、お料理を家で作るよ。温めるのじゃないの」

「まあ、温めるだけの家庭も多いけど、家で調理することも多いだろ。料理するならクッキーも作ったりしそうだけど、そういうのはしないのか?」


        ***


 あのときは本当に驚いたけど、でも料理を作る家ならクッキーも、というあのときのシンの言葉を思い出したとき、レイには一筋の光明が差したように感じられた。もし自分がクッキー担当になれたら、お昼ご飯と飲み物と、そして、おやつ。湖行きは、さらに素晴らしいものになるだろうし、自分に役割があるのは、考えただけでわくわくする。


 湖、おやつ担当、カイにはナイショ― 事情を懸命に説明する子どもの饒舌さと、自分から要望を述べたその成長ぶり(?)に深く感動しつつ、

「わかった、じゃあ、やってみようね。私も、もう長いこと作ってないし、一度じゃ上手く行かないかもだけど、何度かやれば本番までにはきっとだいじょうぶよ」

 ミナはそう言って子どもの頭を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る