第26話

◇ PM8:00


 またあの絵本を読んでいる。

 夜。居間のラグに寝そべって本に見入る子どもを見て、ミナは声をかけた。

「好きね、その本」

「ん」

「カイにもらったんだっけ?」

「ん」


 考えごともしているのか、上の空で、呟くように返事を返す。顔を上げさえしないのがちょっと面白くなくて、ミナはわざと興味を引きそうな質問をすることにした。

「レイちゃんの王子様は、どこにいるのかしらねえ?」

 思惑通り、子どもはぱっと顔を上げた。思わず笑い出しそうになったとき、

「わかんない。おねえちゃんの王子様は?」

 そう返されて、一瞬、言葉に詰まった。母親が笑いながら、レイちゃんの勝ちね! と言ったとき、子どもはさらに言葉を継いだ。

「あのね。愛にはお試し期間があるんだよ」

「ええ? 誰が教えたの、そんなこと?」

 意外な言葉に、2人は思わず声をそろえて叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る