第22話

◇ PM8:00


 ネイチャーチャンネルはレイのお気に入りだ。ソファに並んで座って、画面を見つめる。

 放映されているのは、人工飼育された鳥を群れに戻してペアリングを促し、繁殖を試みる取り組みだった。大きなオス鳥が、人の目にもすらりと美しい1羽のメスに向かい、求愛のダンスを見せる。人間に育てられた鳥の、初めての求愛にしてはなかなか堂々たるものではあったが、そのダンスに応え共に踊るはずのメスは、一向に興味を示さない。足早に遠ざかり、離れたところをうろうろした揚句、“彼女”はふいに嬉しげな(確かにそう聞こえた)鳴き声を上げながら、ある方角へと半ば宙を浮くように駆け寄った。その先には、心配げに成り行きを見守っていた、彼らの親代りとして生まれてからずっと面倒を見てきた飼育担当者が立っていた。


 嬉しげなメスの高い声が、きんと冷えた空気に溶けて行く。

 飼育担当の青年は困惑した笑みを浮かべ、ああ、困りましたねぇ、とカメラに向かって呟いた。


 その様子を見てカイはソファに深くもたれかかり、笑いを含んだ声で、傍らにちょこんと座って見入っているレイのほうに視線を向け、

「こいつ、ばかだよなぁ? 人間にばっか擦り寄って。求愛してるつもりなんだろうけど、自分を人間と勘違いしてるのかな?」

 と、声をかけた。ほんとだね、そう言って笑うかと思ったレイは、ちょっと首を傾げ、それから、一言、

「ばかなの?」

 と聞いてきた。ちょっと意外な反応に肩をすくめながら、カイが答える。

「そりゃあ、そうだろ? 仲間の鳥に見向きもしないで、自分を育てた人間を追い回してるんだぜ。叶いっこないのにさ」

「叶わない?」

「無理だろ~? 人間と鳥じゃあ」

「…叶わない愛を伝えるのは、ばか?」

 真直ぐな瞳。あの瞳で問いかけられ、カイはドキリとした。


 ばか? いや違う、そんなことはない。たとえ叶わなくとも、伝えたい愛だってあるだろう。時々こいつは思いもよらないことを言う、そう思いながら、

「いや、そうとは言えないかもな。けど、でも…俺だったら、叶わない愛とわかっているときは、告白しないままかも。振られるのは、やっぱ痛いし、な」

 必死になって説明を試みると、

「ふーん?」

 わかったようなわからないような顔で、愛って難しいんだねえ、と、ぽつりと言う。子どものそんな台詞にカイは苦笑し、

「愛って、ってなあ。ま、愛に限らず人間関係全般に言えると思うんだけど。ほら、うち親父いないだろ? ある日突然いなくなっちまったんだよ。大好きで信じていた人に突然振られたみたいなもんで、あれは正直、かなり痛かった。後々までずっと。ああいう突然の別れとか、もうごめんだな」


 ああ、何だか余計なことまで言っちまったな、照れたように言う彼に、レイは一言では形容しがたいような笑みを見せた。

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