第6話 7月6日 晴れ

 新しい“家族”を加えた、最初の数日間が過ぎた。姉と母は、少女に温かな気遣いを見せ、レイもまた、はっきり態度に現れこそしないが、そうした2人には徐々に馴染なじんでいるようだった。

 だが、ただ1人、カイだけは、未だどう接してよいか戸惑いが拭えずにいた。事故に巻き込んで記憶を失わせた当事者が、あまり親しげなのも変じゃないか? そんな思いが、どうしても消えない。戸惑いはそのままレイに通じてしまっているようで、2人きりのときに顔を合わせると困惑げにカイを見て、ふいと目を逸らしてしまう。カイは、だからなるべく2人きりにならないよう心掛けた。


 そうしたわけで、休み前に決めていたバイトから戻ったカイの目に居間にぽつんとソファに膝を抱えて座るレイの姿が目に入ったときには、

『あ~。まずい…』

 そんな思いが、まず先に立った。居間の奥の階段を昇り自室に行くには、そのそばを通るしかない。だが、そのまま無言で通り過ぎるのも不自然だ。どうしたものかと、入口で凍りつく彼に気付き、レイもまた視線を合わせないまま表情を固くした。

 不自然な空気に息が詰まる。どうしろって言うんだ! かれこれ1週間近く経つのに、ちゃんとした引き取り先はまだ見つからないのか?―カイは心の中で毒づいた。


 そのとき。そんな2人の間に流れ始めた固い空気を破って、ミナが入ってきた。

「ただいま!」

 そう言いながらずんずん居間を横切り、レイの横を通り過ぎがてら、

「あら、レイちゃん。いい子にしてた?」

 そう言いながら、頭をぽんぽんと軽く叩き、そのまま足を止めることなく2階へと上がっていく。叩かれた頭にそっと触れ、去っていく後姿を目で追いながら、レイは少し照れくさそうな表情を浮かべている。


 ああ、そうか。もしかしたら、俺の考えすぎなのかも。試してみるか―。

 まだミナの後ろ姿に意識を向けているレイに手を伸ばし、その頭に軽く手を置いてみた。予期せぬ相手から不意に触れられて、レイは驚いたような、だがそれだけではない何かを滲ませた表情で見上げてきた。そのキラキラの瞳には好奇が満ちている。どうやら、嫌がられてはいないようだ。

 お、なんだ、よく見るとかわいいな。


 そのまま姉がしたように、ポンポンと軽く頭を叩く。ますます目を丸くした子どもに、さも何でもないような風を装って、

「どうした?」

 わざと少しぶっきらぼうな調子で訊ねた。

「…ない?」

 小さな、掠れるような声が返る。

「ん? なんだ?」

「嫌じゃ、ない?」

「なんで? もちろん嫌じゃないよ」

 そう答えると、途端にぱっと俯いてしまった。どうした、と聞こうとして、言葉を止める。俯いて見えない表情に代り、真っ赤に染まった両耳が、レイの気持ちを雄弁に語っていたから。

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