第50話:開戦後の夜

「そうか、人間軍は引いたのか」

「はい。森の中へと撤退致しました。明日までには態勢を整えて攻めてくるかもしれません」

「だな。追撃しなかったのは正しい判断だ。夜間での戦闘は避けた方が無難だ。奇襲を仕掛けてもよいが……」

「ここはバルザークの判断が正しかったかもしません」


 バルザークとフランの会話にベノンがそう告げてきた。


「矢張りベノンもそう思うか」

「はい。明日にでも仕掛けられるようにこちらも態勢を整えた方がよろしいかと」

「であるな。では皆の者、明日の戦闘の為に体制を整えておけ。それとしっかりと体を休めておくことだ。私からは以上だ」

「「「御意っ!」」」


 こうして一同は解散し明日に備えるのであった。



 ……


 …………


 ………………



 撤退した人間軍は森の中で体を休めていた。

 だが後方の作戦本部は簡易テントの中で人を集め、明日の作戦を考えていた。


「勇者殿達の容態はどうだ?」


 そう尋ねたのは、今作戦の最高指揮官であるセザール・ハイラートその人であった。


「はい。勇者様達は大分回復されたようでした。本人も明日には戦えると言っておりました」

「そうか。勇者殿をこちらに呼べるか? 作戦を立てるにしても勇者がいないと出来ないからな」

「了解しました」


 一人がテントを出て勇者を呼びに向かった。

 しばらくしてテントの入り口が開いた。


「ただいま参りました」

「来てくれたか勇者殿。夜分遅くにすまないな」

「いえ。十分に休みましたので」

「明日には戦えると聞いたが?」

「はい。明日には他の三人も万全の状態で戦えます」

「そうか」


 セザールは今回ラフィネを呼んだ理由を話した。


「今回ここに来てもらったのは明日の作戦の話だ。元々は森を抜けた先で拠点を構えようと思っていたが……」


 森で奇襲を受けたことによりそれが出来なかったのだ。


「申し訳ございません」

「勇者殿が謝る必要は無い。それで聞きたい」

「何をですか?」

「勇者殿が戦った相手だ」

「わかりました」


 ラフィネはバルザークについて語った。


「あの魔族は四天王の一人でした。その力と魔力は凄まじかったです」

「それほどか?」

「はい。あのノワール程とはいきませんでしたが、それでもなかなかの強敵です」

「……倒せるのか?」

「恐らくは」


 ラフィネは倒せるとは断言できなかった。

 何故なら、先の戦闘ではバルザークに傷すらつけられなかったからである。


「そうか。四天王は任せることになる。頼んだ」

「勿論です。それと」


 ラフィネは気になることがあるのかセザールに尋ねた。


「どうした?」

「はい。敵もこちらも夜襲を仕掛けるかと思っていたのですが、そんな様子がなく疑問に思いまして」

「そのことか。敵の夜襲はないとは言い切れないが、恐らくは無いのだろう。お互いに被害は出たからな。こちらも同様だ。偵察は放っているが向こうも明日の為に準備と態勢を整えているようだ」

「そうでしたか」

「明日が本当の戦いになるだろう。心して置け」

「はい」

「では皆、作戦会議を始めるとしよう」


 こうして遅くまで作戦会議が行われるのであった。

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