第33話:死闘

拳を構えるレイドへとアルミラースは問うた。


『その程度の拳で何が出来る? その程度で我を倒すこと以前に傷を付けることすら不可能だ』

「なら試してみるとしようか」


その言葉と共にレイドは体に気と魔力を渡り巡らせ、アルミラースとの距離を一瞬で詰めた。


『――なにっ⁉︎』


想像以上の速さに驚愕の声を上げたアルミラース。

アルミラースへと迫ったレイドは跳躍し腹部を目掛けて拳を振り抜いた。


ズンッという鈍い音と共に重い一撃がアルミラースの腹を衝いた。


『――ふぐぅぅぅぅぅうっ⁉︎』


そのまま地面へと墜落し蜘蛛の巣状に亀裂を走らせる。

そして拳が放たれた場所はというと、自慢の漆黒の竜鱗がヒビ割れ一部が剥がれ落ちていた。


ゆっくりと首を上げてレイドを睨むアルミラース。


『ま、まさかたった一撃でここまでやられるとは……』


 自身の剝がれ落ちた竜鱗を見ながらそう呟いた。


「どうだ? そろそろその鱗を分けてくれないか?」

『だから痛いと言っているであろう!』


 やっぱり駄目である。


「仕方ない。力尽くで剥ぐとしようか」


 そう言ってレイドはポキポキと腕を鳴らし凶悪な笑みを浮かべた。


『黙ってやられるわけがなかろう! この場で死ぬがよいわ!』


 再び上空に飛行したアルミラースは腕を振り下ろした。

 すると爪が光り輝き振り下ろされるのと同時に斬撃がレイドへと飛来した。


 迫り来る斬撃を冷静に見つめながら両腕に魔力を流し――斬撃を弾き詰め寄る。

 だが――


『我は空だ。貴様の攻撃が届くと思うか?』


 空の王者故のセリフであった。


「届かないなら飛べばいい」

『……何?』


 足に力を込めて跳躍した。


『なっ!?』


 一瞬で眼前へと躍り出たレイドを見て驚愕の声を漏らすアルミラースだったが、次の瞬間には笑みを浮かべた。


 ドラゴンの顔で笑みが作れるかは些か疑問は残るが……


 空はドラゴンの支配領域である。


 アルミラースの口元に今まで以上の魔力が集束し、さらにはレイドを囲むように数百もの魔法陣が展開されていた。


『――死ね』


 そうして放たれる魔法の数々はレイドへと直撃し――爆炎を上げた。


『トドメだ!』


 ブレスが爆炎へと向けて放たれた。

 その威力は桁違いでありさらに大爆発を起こした。


「レイドッ!!」


 リリスが叫ぶ。


『無駄だ魔族の娘よ。我のこの一撃を受けて生きている者は存在しない』

「そんな……」


 膝を突いてレイドが居るであろう場所を見ながら絶望の表情を浮かべるリリス。

 そこに聞こえるはずのない声が響いた。


「――リリスにアルミラース。勝手に俺を殺すな」

『――なっ!? 灰すら残らず死んだはずでは!!』


 レイドは腕を振り払い炎を消し去る。

 無傷とはいかなかったものの、二本の足でしっかりと立つレイドの姿がそこにはあった。


「レイドッ!」


 レイドを名前を呼び笑みを浮かべるリリス。

 そんなリリスに対してレイドは安心させるように言葉をかけた。


「心配させたな。俺はこの通り大丈夫だ。そこで待っていろ」

「わかった」


 そうしてレイドは驚いているままのアルミラースへと。


「さあ、続きを始めようか」


 レイドは自身の魔力を解き放つ。するとその濃密で濃い魔力の奔流は螺旋を描きながら天を衝いた。

 その魔力量と密度はまさに圧倒的。


 その中心にいるレイドはアルミラースを見て笑みを浮かべるのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る