第4話:元勇者、魔王城へ
――数日後。
魔王城へと続く階段を登る仮面を付けた者がいた。階段を登りきると城前の城門で止められた。
仮面を付けた不審者に門番が静止の声をかけた。
「そこの者止まれ。ここから先は許可がない限り通ることは出来ない。どの様な要件があるのかはわからないが今すぐ引き返せ。命が惜しければな」
仮面越しに門番を睨む。
「……そこを退いて通せ。貴様の命が惜しければな」
「何を言って――ヒッ!!」
仮面の男から発せられる殺気に二人の門番が後ずさった。だがここから先は自分達の王、魔王がいる居城だ。断じて通すわけにはいかなかった。
だから恐怖よりも守るべき存在の為に仮面の男――レイドへと二人は剣を向けた。
「貴様のような者を魔王様の下へと行かせるわけにはいかない!」
「そうだ! それが我々の使命だ!」
そんな二人を見てレイドは「そうか」とだけ告げ、次の瞬間には二人の門番が門を破壊しながら吹き飛んだ。
魔族は人間よりも頑丈で強く魔力量もその扱いも人間よりも遥かに上だ。だから人間は魔族相手の戦争に戦局が押されていたのである。
「では通してもらうぞ」
レイドは王城へと歩を進めたのだった。
◇ ◇ ◇
「今の音は何だ! 報告せよ!」
豪奢な玉座に座る人物――魔王が近くにいた者へと何が起きているのかを尋ねた。
そこに一人の人物が玉座の間に入ってきた。
「報告です!」
「なんだ!」
「はっ! 一人の仮面を付けた正体不明の者がこちらへと向かってきております!」
ピクリと眉が反応する。
「仮面を付けた者? それは魔族か?」
「いえ。フードと仮面のせいで正体がわかりません」
「そうか。下がってよいぞ」
「はっ!」
報告に来た者が下がると、その近くに控えていた一人の魔族の老執事が告げた。
「魔王様、どうなさいますか?」
「ここまで来れたのなら私、魔王自ら相手をしてやろうではないか」
「はっ。ですが魔王様の相手をする前に私が」
「よかろう」
◇ ◇ ◇
「貴様が侵入者か。ここで俺自ら殺してやる。この魔王軍四天王が一人、バルザークがな!」
レイドの前に一人の大男が現れそう告げた。手には禍々しい大剣が握られていた。
無言でレイドはその男を見据える。
「ふんっ、まあいい。では――死ねっ!」
一瞬で目の前に迫り大剣をレイドへと振り下ろすバルザーク。
斬られるか、そう思った瞬間だった。
「なっ!? そんなまさか! 片手でこの魔剣プロクスを止めただとっ!?」
そう。レイドはバルザークの大剣を片手で受け止めたのである。
だがバルザークは驚きはしたものの、口角を釣り上げ笑った。
それは何故か?
理由はすぐにわかることとなる。
「だがこの魔剣の力の前にはどうだかな?」
瞬間、魔剣が真っ赤に燃え上がりレイドの腕を炎に包み込んだ。
「はははっ! そのまま焼け死ね! 名も知らぬ強き者よ!」
炎は次第にレイドの体を包み込み激しく燃え上がる。
バルザークが勝利を確信したその時、炎の中から声が聞こえた。
「――魔剣とやらの力はその程度か?」
「なっ!? 何故焼け死んでいない!! この魔剣は地獄の業火とまで言われているんだぞ!」
驚愕の余りそんな声を上げた。
何故レイドが炎の中でも無事だったのかというと、それはレイドが魔力で体を覆っていたからである。普通の人や魔族でも焼け死ぬはずなのに生きていられたのはそのせいであった。
だがこれは緻密な魔力制御ができてこその技であった。
レイドは内包する魔力量も人の域を超えており、計り知れない魔力量を秘めていた。その魔力量は魔王をすらも遥かに超えており底が見えないのだ。
つまりレイドは、一種の化け物である。
一瞬でバルザークの懐へと潜り込んだレイドは腹へと衝打を放ち、そのまま背後の壁を破壊しながら吹き飛んで行った。
殺さないのは何度も言うが敵ではないからである。
「では通してもらう」
それから残り二名の四天王、魔法を扱う腰まで伸びた青い長髪と深い青色の瞳をした美少女のイリーナと、ネクロマンサーの紫色の髪と瞳が特徴の小柄な少女、リリスを倒したレイドはある大きな扉の前にいた。
その扉の先は――玉座の間である。
そしてレイドは目の前の細やかな彫刻が施された豪奢な扉を開け放った。
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