4-04
商業都市の、人の気配が全くない、閑静な裏路地。誰にも見つからないようそこへ着陸したナクトは、ゆっくりとリーンを下ろす。
そして、ナクトは両腕を組み、珍しく厳しい表情をリーンに向ける……が。
「さて、リーン、どういうコトなのか、聞かせてもらおうか。……リーン?」
「………………」
リーンは俯いて、顔も上げない。もしかすると我に返り、既に反省しているのか――
「な、ナクト様、あのっ……お、お姫様だっこは、恥ずかしいですわっ……きゃっ♪」
あんな演説ぶちかましておいて、恥ずかしがるポイントがおかしすぎる。
さすがに困惑するナクトだが、今はとにかく、リーンに言い聞かせる時だ。
「リーン、何度も言うようだけど……俺は別に、全裸というワケじゃなく、《世界》を装備していてだな――」
「! はい、もちろんですわっ。リーンも最近、少しはわかってきましたの。わかればこそ、《世界》を装備できるのはナクト様だけなのだと、より強く実感して……お部屋で一人の時、わたくしも練習で脱いでみましたが……〝あっ、これ、なんか違うな〟って」
「分かってくれて何よりだよ。ちゃんと練習を挟んでいるのも安心した。でもな、とりあえず今は、そこが問題じゃなくてだな。変な話を広めないでくれって――」
「それで……わたくしは、わたくしなりの、やり方で……んっ♥ ……な、ナクト様に、少しでも……近づかなくては、と思ったのです。……ん、ふぅっ……は、あっ」
「いや、話を聞いてほしいんだけど。……? リーン、大丈夫か? こと最近に関しては、色んな意味で思っているけど……様子が変だぞ?」
そこそこ失礼な言い分のナクトだが、割と事実に即している。
一方、リーンは何やら両腕で自身の体を抱きしめるようにして、もじもじと身動ぎしていた。視線は忙しなく、右へ左へ。きめ細やかな白肌が、火照って赤くなっていく。
「……あ、あのですね、ナクト様……わたくし……リーンは、今、ですね……?」
上目遣いでナクトを見上げつつ、片手で法衣越しに胸元を押さえ、リーンは――熱っぽく、艶っぽい声で、言った。
「この、法衣の下……わたくしが〝水〟で作った縄で、縛っているのです……♥」
「なんで?」
ナクトの口から、反射的に素直な疑問が飛び出す。そりゃそうだ。
しかもよくよく考えれば、リーンはこの状態で、民衆達に演説していたという事になる。考えるほど〝なんでだ〟が溢れ出す状況で、リーンの昂りは暴走を続けた。
「ナクト様は以前、〝水〟の能力を防御にだけ使うわたくしに、仰ってくださいました……〝水を守りにだけ使うなんて、もったいないぞ。愛している〟と。そう、守るだけではない……攻める事も、時には必要だと。己を縛るのも、練習の一環……ん、あんっ♥」
「言ったような気もするし、言ってないコトが混ざっている気もする。けど少なくとも確かなのは、そんな意味で言っていないぞ。何で自分を縛る必要があるんだリーン」
「やってみたら、〝あっ、コレかな〟としっくりきて……でも、お……おかしいんです」
〝おかしい〟という言葉には激しく同意する、が――身悶え、荒い息を吐くリーンは、どんどんナクトの方へ、胸が触れるほどの距離まで近づいていき。
「演説の時なんかは、何も感じなかった、のにっ……ナクト様に、見て頂いている、今はっ……カラダが、奥から、どんどん熱くなってぇっ……抑え、られませんっ……!」
「待て待て待て。法衣を、くしゃってするな。ただでさえ危ういのに、見えそうになるから。ていうか水の縄、ホントに縛っているんだな。いやそれも見えちゃってるからな」
「ああっ! わ、わたくし、なんて……なんて、はしたないっ……」
今気づいたの? と、ツッコむ間もなく、リーンの高揚は、頂点を迎えたらしく。
「わ、わたくしっ、新しい、《世界》がっ……ととのいました……っ♥」
「リーン? ……リーン、しっかりしろリーン!」
かくん、と全身が脱力するリーンを、慌ててナクトは受け止め。
本当に、何だったんだ――と困惑しつつ、倒れた彼女を運ぶ事にしたのだった。
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