4-05
リーンも彼女の部屋に送り、寝かせてやる。エクリシアの事も含めて、この高級宿が人知れず変態収容所になりかけているのを、遺憾に思います。
ようやく一仕事を終えたナクトは、夜を迎えていた事に気付き、マントを脱いで一風呂浴びる事にした。束の間の休息のはずなのに、戦っている時より疲れている気がする。
ふう、と大きく息を吐いたナクトが――さすが高級宿というべきか、部屋に備え付けられている大浴場の、広い浴槽に身を沈めていくと。
「んん~っ……やっぱり風呂はイイな。《神々の死境》じゃ、ゆっくり湯に浸かれるコトは、滅多になかったし……温泉には〝温泉ドラゴン〟が棲みついているのが基本だし」
「そ、そんな魔物がいるのですか……本当に未知数な場所ですね……」
「まあ、生まれ育った俺としては、それが普通だったんだけどな。ふう~……で、だ」
普通に返事していたナクトが、話しかけてきていた《姫騎士》――膝まで隠れるタオルを巻いて佇むレナリアに、声をかける。
「なんでレナリアが、ここにいるんだ……? いくら俺が男だからって、俺が《世界》を装備していなかったら、今頃大騒ぎだぞ……?」
「あっ……い、今も《世界》、装備してらっしゃるんですね」
「それはまあ、生まれてこの方、多分ずっと装備してきたからな……お湯だろうと《世界》だし。《世界》の脱ぎ方なんて、逆に分からないくらいだ」
「そ、そうなのですね。未熟なレナリアには、まだまだその境地は分かりませんし、やっぱりナクト師匠は生まれたままのお姿に見えますけれど……きゃっ……♥」
勝手に浴場に踏み込んできた本人が、今更恥ずかしがっている。
何で皆、考える前に〝とりあえずやってみる〟のだろう。悩むナクトだが、真に頭を抱える事になるのは、これからで。
「で、ですが、ナクト師匠っ。未熟だからこそ、私に……レナリアに! また〝全裸レッスン〟を、ご教授くださいっ!」
「俺から何かした覚えはないんだけど。……待った、ご教授ください、って……まさかとは思うが、今――」
「もちろんです! ど、どうか――お願いしますっ――!」
「もちろんじゃないと思うんだ。ま、待て、レナリアっ―――んっ!?」
レナリアが勢いよく脱ぎ捨てたバスタオルの下は、全裸――……?
いや、全裸では……ある。全裸なのだが、しかし……大事な部分は隠されている。だが、確かに全裸なのだ。一体……どうなっているのか……?
全裸のレナリアの、大事な部分を隠すように――《謎の光》が、遮っている――!?
角度が変われど、距離が変われど、絶妙に白い光が差し込み、レナリアの大事な部分ををガードしていた。光が差し込む窓なんて、ないのに。
言うなれば、『装備:謎の光』――それを目の当たりにしたナクトは。
「――そんな装備、どうして思いついちゃったんだレナリア!?」
「あ、あう。《光の聖城》の、城下町で……ナクト師匠に、〝光を捻じ曲げて姿を隠す〟能力で、一緒に隠して頂いた時……〝これだ!〟と閃き、練習しまして……」
「器用だな! いやもう、それはそれでスゴイけど……は、恥ずかしくないのか!?」
「は、恥ずかしいですよう! 実質、裸ですし……いえ、光を装備していますよ、いますけれどねっ!? ……でも、それより……私は……」
そこでレナリアは、もじもじと身じろぎながらも、しゅん、と項垂れた。……ちなみにその間も《謎の光》は、大事な部分を隠していた。すごい、すごい仕事する、光。
とにかく、この突飛(すぎる)行為にも、何やらレナリアなりの理由があるようだ。
「もうすぐ……《魔軍》との、決戦です。でも、私はまだまだ、全然弱くて……少しでも、ほんの少しでも、強くなれるよう……出来る事を、したくて……」
「! ……レナリア、そうか。それで思いつめて、こんな行動を……」
「だ、だから……ナクト師匠! どうか、どうかレナリアに……〝全裸レッスン〟を、お願いします! ……ふわっ?」
重ねて要求してくるレナリアが、下げた頭を――ナクトは、軽く撫でていた。
「あ、あのあの、ナクト師匠、何を……ふ、ふわぅ……♪」
「レナリア。そんなに自分を、追い込む必要はない。レナリアなりに考えて、決戦に向けて準備しようとしているんだろう……けど、急に極端なコトをしても、逆効果だぞ」
「えっ……そ、そうなのですか?」
「当然だ。急激な変化なんて、《世界》は嫌うモノだぞ。そんな風に、突飛な真似をしなくても……レナリアは、出会った頃から、ちゃんと成長してきている」
「えっ。ほ……本当ですか、ナクト師匠っ!?」
当然だ、とナクトは頷きながら、安心させるようにレナリアへと笑いかけた。
「大丈夫だ、レナリア――言っただろ? 《世界》はもっと、素直で、自由だって。ゆっくりでイイんだ。ゆっくり、ゆっくりと……《世界》を識り、馴染んでいけばイイ」
「! ……ナクト師匠っ……」
ナクトが優しく頷くと、《謎の光》に守られし《姫騎士》レナリアは、感銘を受けたのか、輝かせた目を彼に向けて。
「ありがとうございます、ナクト師匠! レナリアは――分かりました!」
「そうか、分かってくれたか。じゃあそろそろバスタオルを巻き直して、外へ――」
「今から不肖の弟子、レナリアがっ――ナクト師匠のお背中、流させて頂きますっ!」
「何が分かったんだレナリア。俺には何も分からない」
弟子の心からの申し出に、師匠は困惑で返すしかできない。
しかし加速する暴走娘レナリアは、ふんふんと鼻息荒く突っ走っていた。
「ナクト師匠は、言ってくださいましたっ……素直に、自由にして良いと! レナリアは今、素直に、自由にっ……ナクト師匠のお背中を、全力でお流ししたいのですーっ!」
「してイイとか、別に言ってなかったよ俺。むしろ突飛な真似はしないよう言ったよ」
「そして、そうする事でっ……えっと、そうする事で、ゆっくりと《世界》に馴染んで……レナリアにとって、《世界》ってナクト師匠の事ですから、えっと……え~っと」
何となく、目の中がぐるぐる回っているように見えるレナリアが、出した結論は。
「ナクト師匠の、お背中を~……レナリアの、体で洗えば……良いのですね~……?」
「自分でもワケが分かってないなら、もう止そうレナリア。……レナリアーっ!」
今のレナリアは、どう見ても『状態異常:混乱』である。声が聞こえていないように、味方に攻撃しようとする様など、まさに〝そのもの〟だ。
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