4-03

〝街中・重装露出羞恥プレイ〟という矛盾を孕んだ暴走をかましてくれたエクリシアは、宿に着くなりダウンしてしまったため、彼女の部屋に運んで寝かせてやった。

 一方、ナクトは彼女を寝かせた後、今更自分の部屋に戻るのも微妙だし、と外出し――今は〝風〟の能力で、商業都市の上空を飛び回っている。


 上空からでも、《世界連結》で五感を強化すれば、露店に並ぶ商品は見えるし、人々の話し声も聞こえてくる。

 ……《剛地不動将》と謎のマントの男が、突然にお互いを締め上げ合い、激戦の果てに互いに消滅してしまった……という噂は聞かなかった事にした。


 とにかく、そうして商業都市を見回っていると、《水の神都》でも見た大聖堂を縮小したような教会が見つかる。

 そして、いかにも神聖な雰囲気を醸す教会の門前には、《水神の女教皇アクア・プリエステス》リーンの姿が――慈愛に満ちた微笑みは、その場にピタリと適合していた。


「あれは、リーン……さすが、多くの人に慕われているんだな」


 教会の前には、《水神の女教皇》を一目見んと、商業都市の人間が詰めかけているらしい。一時は騒ぎになりかけたが、リーンの制止一つで、あっさり収まったとも聞こえる。


 今では誰もが、黙ってリーンの言葉に耳を傾け、恍惚とした表情を浮かべるものさえいた。かつて旅立ちの時、〝七日に一度ノーパンの日〟を強行した人物とは思えない。

 ……いや、あれはきっと、テンションが上がりすぎたゆえの、一時の気の迷いだったのだろう。よくよく思い返してみれば、旅に出てからは優れた判断力や知識も見せていたし、奇行もそんっ……少なかった(なくはない)。


 元々が、純粋で清廉な心根の持ち主だ。落ち着きさえすれば、そんな妙な行動を起こしたりしないのは、リーンの話を聞けばよく分かる――!


『――良いですか。全裸の、全裸の力を信じるのです――』


 この子の流れの変え方、えげつないな、とナクトは思う。

 例えるなら、堰を切った川の激流。放つ言葉も止まる事を知らない。


『かつてわたくしは、とある偉大な御方に救われ、その御方に神の姿を見ました。そこには、一方的に敵を屠る強大な力ではなく……全てを包み込むような、裸の心があったのです。そう、皆様……裸こそ、全裸こそが、この世界を救う真理なのです!』


 ぐっ、と小さな握り拳と柔らかな声に力が入る、リーンが続けて述べた。


『無論、いきなり全裸になったとて、真理に到達などできません。むしろそれは軽はずみな不敬、救いは遠ざかりますわ。ゆえに、そう――〝五日に一度、下着着用禁止の日〟を設けるのはいかがでしょう? 何事も、一歩一歩、積み重ね……ですわ♪』


 なんかノーパンの日の間隔、短くなっている気がする。

 ちなみに、このような無茶苦茶な演説を聞いた、民衆達の反応はといえば――


『む……むむ、む~ん……! さっ――さすがは《水神の女教皇》様だァァァ!』

『すごいわ、何を言っているのか、全く理解できない……でも理解できないほど、深いお考えということね……間違いないわ、《水神の女教皇》様がおっしゃるんだもの!』

『いやだわ、涙が溢れてくる……なぜかって? それは私の心にダムがあるからです。《水神の女教皇》様、バンザーイ!』


 ナクトも少し、慣れてきた。でも、ちょっぴり……怖いネ。

 それはそうと、このまま放置しては恐ろしい騒ぎに発展しそうだし、気も引ける。何を言い出すか分からないし、早いところ終わらせなければ。

 そうナクトが思っている間にも、リーンはまだ、演説を続けているし――


『さあ、皆様、全裸の力を信じるのです! そして、偉大なる神の名を全土に広めましょう! その名も《全裸神》ナクトさ―――………』


『!? なな、なんだっ……《水神の女教皇》様の姿が消えたぞォ!』

『……か、神……神の御業よ、きっとォォォ!』

『す、すげぇ……何かよくわからんが、とにかくスゲェェェェ!』


 教会の前に、歓声だけを残し、消えた《水神の女教皇》は――今、ナクトに抱かれ、空を舞っているのだった。

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