第8話「ネグセの日記」

記憶にある家にたどり着いた。小学校入学時に建てられた2階建ての一軒家だ。両親はいるだろうか。


仮にいたとしても自分の姿は見えない。


さすがに自分の家だ。身体が覚えている。

気がつくと玄関まで入っていた。


「ただいま・・・」


”おかえり”


母親の声は聞こえない。

いつものリビングに行くが誰もいない。

まだ2人とも帰ってきてないらしい。


2階に上がり、自分の部屋に向かった。


部屋に入ってみると、

自分の記憶と何一つ変わらない様子だった。

自分がいなくなってもそのままにしているようだ。


大学で使っていた教科書が机の上にバラバラに置かれている。


・・・少し思い出してきた。

確か夜に行われる飲み会のため、

大学から帰宅し、バッグから教科書を机の上に出し、そのバッグを持って出かけた。


残っている記憶は飲み会前、恐らく飲み会の際に何かが起きて、こちらの世界に来てしまったのであろう。


教科書の横には、”日記”が置かれている。

大学に入学してから、ほぼ毎日書いていた。

日記の表紙には、


”日記7”と書かれている。


7冊も書いたかなと思いながらも、

棚に並んでている”日記1”を探す。


将来の夢から始まり、大学での愚痴、私生活での出来事などが書かれている。


「本当に痛いな。俺・・・」


同じようなことが書かれている日記を1から6まで読み進めた。


6冊目の最後には飲み会のことが書かれていた。

———

○○月 ☓☓日 □曜日


今日も何も変わらない一日でした。

もうそろそろ冬休み!!!

何しようかな〜〜〜。


とりま明日の飲み会で

みんなと話して、行くところを決めよう!!!

温泉とかがいいな笑

———-


飲み会の日の何が起きたのであればこれが最後に書いたことになる。7冊目は何が書かれているのだろう。

確か6冊目が終わることを見越して購入していたはずだ。


念の為、7冊目を確認しようとした瞬間、


『アキ?』


自分の名前は”明樹”だ。

”明るく”そして”樹のように強く”という意味が込められている。


「えっ!?」


家には誰もいなかったはずだ。

日記に夢中になるあまり帰ってきたことに気づかなかったのだ。


とっさに手に持っていた7冊目の日記を手放し、床に落とした。


失敗した。。。

母には、日記が浮いて見えていたはずだ。


『アキ?アキ?』


「母さん。。。」


こちらの声は届かない。姿も見えない。

泣きそうになっている母親は床に落ちた日記を手に取り、机の上に置き、カーテンを閉めに向かっている。


毎日使わない部屋のカーテンの開け閉めをしているようだ。

自分が生きている時からそうだった。朝は自分を起こすために部屋に入ってきてカーテンを開け、大学から帰宅するといつもカーテンは閉められていた。


机の上に置かれた”日記7”は、1ページ目を開かれた状態で置かれていた。


そこには自分のものではない字で書かれていた。


「ありがとう。また会いたいよ。」母・父より


目の前にいる母に思わず触れてしまいそうになったがぐっと堪える。


「母さん、、、ごめんなさい・・・」


自分の苦しみは一瞬だったかもしれないが、

両親は今後一生苦しむかもしれない。


母はカーテンを閉め、ゆっくりと部屋を出ていった。

出ていく際に何かをつぶやいたように見えたが、よく聞こえなかった。『おかえりなさい。』とでも言ったのであろうか。

いや、本が浮いているという心霊体験をして、そんなことは言わないであろう。


————


父が帰宅し、家族3人で過ごした。

いつものように、、、


食事はできない・・・


会話もできない・・・


どこかに行くこともできない・・・


遊ぶこともできない・・・


・・・いつもの当たり前をすることができない・・・


ショート姉さんの言っていた”寂しさ”という感情が

ここに来て襲ってきた。


こちらの世界にいる”意味”をもう一度考える必要がある。


”消える”という選択とも向き合うべきなのかもしれない。


ここにずっといたい気持ちを殺し、リビングから出て玄関まで行き、いつものように、

「いってきます!母さん!父さん!」


『いってらっしゃい。』

たまたま父がタバコを吸うために外に出るようだ。


『タバコを吸うだけだよ。』


父と外に出る。

「父さん、俺も変わるよ。」


右手のカウントが(1/5)になっている

がこれは後になって気づいたことである。

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