第23話 VSゴブリン連合 本戦①
ゴブリンとオーク連合との戦いの後、アラタ達は『ニーベルンゲン大森林』の出入り口に戻って来た。
救助した傭兵ギルドの四人はアンジェの治癒術によって行動可能な状態まで回復していた。その四人は今、目の前にいるブレイズドラゴンを見上げて震えていた。
そのブレイズドラゴン――フランはアラタから今後の指示を受けている。
「――という訳で、フランは彼らを『ファルナス』のギルド協会まで連れて行ってくれ。ダメージが回復したと言っても彼らの疲労はかなりのものだからね。それと、リクルートさんに、今ここで起きているゴブリン連合の件を伝えてほしい。内容はさっき言った通りにね。頼んだよ」
「うん、分かった。これから魔王軍がゴブリン連合の本体を潰すから、その後の処理のために人を送ってほしいって言えばいいんだよね!」
アラタは親指を立てて「それでオッケー」とフランに伝え、フランも指を一本立てて同じように見せる。
その間、傭兵ギルドの四人にはアンジェから注意事項が伝えられていた。内容は、目的地に到着したら着陸前にフランから飛び降りて欲しいというものだ。
四人の顔には疑問の色が浮かんでいたが、この後その意味を彼らは知ることになる。
こうして、フランは四人の魔闘士を乗せて『ファルナス』に戻っていった。
フランの後ろ姿を見送った後、アラタたちは再び大森林の中に入っていく。魔王軍全員の表情は真剣そのものだ。
それもそのはず、これから彼らは千人はいるだろうと予想されるゴブリン連合にたった七人で戦いを挑むからである。
森の奥に向かって歩きながらアラタは全員に指示を出した。
「基本的な戦い方はさっきと同じでいい。ただ、俺以外は二人一組で行動したほうがいいだろうな。セスとロック、アンジェとトリーシャ、ドラグとセレーネの三班で動いてくれ」
「アラタ様はお一人でよいのですか? よければ私とトリーシャの班に入りませんか? 今日は天気もいいですし、この森はとても雰囲気が良い場所もたくさんあります。この開放的な大自然の中でならいつもと違った盛り上がり方が出来ると思うのですが」
「アンジェ、お前が何を考えているのかだいたい分かったよ。この状況下でよくそっち方向に意識を向けられるな。そんなこと言っていると真面目なトリーシャが怒るよ。なぁ、トリ――」
そう言いかけると、目を閉じながら頬を赤らめてボリュームのある尻尾を左右に勢いよく振るトリーシャの姿があった。
どうやら、彼女もまんざらでもないらしい。
「これはいかん。日に日にトリーシャがアンジェ色に染められていく」
その言葉に少し不服そうな顔をするアンジェ。それを無視して、アラタは話を本題に戻した。
「今回の戦闘では皆に派手に暴れてもらいたい。俺はゴブリンキングを探す。ヤツは自分の身が危険と判断するとすぐに逃げるから、そこを叩く。俺は戦力から外れるけどいいか?」
全員が頷いて返答する。こうして、戦略が整った魔王軍はゴブリン連合がいるとされる『ニーベルンゲン大森林』の岩場に向かって行った。
その十数分後、その方向からゴブリンやオークの雄叫びが響き渡るのであった。
その敵集団は想定通りの数だった。魔物の中ではゴブリンやオークは下級に位置しており、結成後間もない傭兵ギルドの好敵手である。
そんな初心者向けの魔物でも頭数が千近くともなると圧巻だ。
そんな圧巻の魔物の集団は現在六人の魔闘士に一方的に叩きのめされていた。
巨大な炎の塊が弓矢を持つ後方支援のゴブリン部隊のど真ん中に落とされ、跡形もなく燃やし尽くしていった。
その様子を見て炎の塊であるエクスプロージョンを再び放ったセスは、周囲の状況を確認しながら前衛であるロックに指示を出す。
「ロック! そっちにレッドキャップが二体行った! 周囲の敵はこちらで対応する。打ちのめせ!」
「あいよ! 任された!」
ロックの左右から赤い帽子を被った俊足のゴブリンが姿を現す。姿を見せたかと思えばあっという間に標的との間合いを詰めていた。
二名のレッドキャップはそれぞれ槍と刀を装備し二人同時にロックに襲い掛かる。
一方、ロックの武器は両手に装備したガントレットのみ。
ロックは左右から同時に向けられる刃をガントレットの甲でいなし、腰の回転を利用した蹴りで一人の首をへし折った。
その回転の勢いのまま裏拳でもう一体の頭部を吹き飛ばした。
「まだまだ! かかってこい!」
ロックが振り返ると今度はオークの群れが現れる。その中に特攻し拳を振うと一撃で数体のオークが吹き飛んでいく。
その鬼気迫るプレッシャーにオークたちは恐怖を覚える。逃げ出そうとするも、瞬時に追いつかれ鋼鉄の様な拳の餌食になっていった。
そこから少し離れた場所ではゴブリンやオークたちが人の形をした影の集団と戦っていた。
セレーネの召喚したシャドーサーヴァントである影の集団は、格闘により次々と魔物たちを打ち倒していく。
その影たちの間をセレーネがてくてく歩きながらシャドーボールを連射して容赦なく敵を殲滅していく。
その徹底ぶりにドラグは驚いていた。
「セレーネ殿、随分と気合が入っていますな。何かこう……私怨の様なものを感じるのですが何かあったのですか?」
それに対し、セレーネはいつもの笑顔ではあったが目はぎらついていた。そこには明確に怒りの感情が込められていた。
「神魔戦争時には、その混乱に乗じてゴブリンやオークの集団がいたる所で人々を襲っていたの。同盟軍の主力は敵陣営である『セラフィム』との戦いに全戦力を投入していたから、そっちには戦力を割くことは出来なかった。その結果、戦時中一般住民に最も被害を与えたのはゴブリンたちだったのよ。その事実を知っているからこそ、アラタちゃんは今回ゴブリンとオークの連合軍を徹底的に叩こうと思ったのね。――その気持ちは私も同じ。だから私も徹底的にやるつもりよ!」
「そのような事があったのですか! なれば拙者も全力にて敵を圧倒いたします! それでは行って参ります!!」
「行ってらっしゃい」
セレーネは手を振ってドラグを送り出す。彼は一心不乱に敵を千切っては投げ、さらに電撃を浴びせ本能的な恐怖を敵に植え付けていくのであった。
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