第22話 魔王軍VSゴブリン連合②

 アラタとドラグの変化と叩き付けられる殺気を前に、ゴブリンたちはこの瞬間察した。

 今自分たちが戦いを挑んだのはとんでもない化け物であったと。

 戦意を消失し、ゆるしを請う間もなくゴブリンたちはアラタたちに倒されていく。

 そこから離れた所では、ロックとトリーシャに屠られる敵の集団がいた。

 魔王軍の前衛四人が周囲に群がるゴブリンとオークを次々と打ち倒す中、木々の間を疾走し彼らに接近する者たちがいた。

 血のように赤く染め上げられた帽子を被り、その手には各々ダガー、剣、槍、斧といった得物を携えている。

 身の丈が小柄な成人男性程度の者たちは残虐な笑みを浮かべて、疾風の如く森の中から現れ魔王軍に襲い掛かった。


 連中が最初に狙ったのは一番近くにいる黒衣のローブを纏った魔闘士だ。

 赤帽子を被ったゴブリン――レッドキャップは二人がかりで背を向ける黒衣の魔闘士を狙う。

 それぞれの武器であるダガーと斧で敵の首と心臓といった急所を狙って一撃で仕留めにかかった――が、その凶刃は相手に届かなかった。


「やっとお出ましか。随分と重役出勤じゃないか、寝坊でもしたのか?」


「ギギギ!?」


 死角からの攻撃を黒衣の魔闘士――アラタは完全に見切り、当たる寸前で回避した。

 躱せるはずのない攻撃を躱した相手に、レッドキャップたちは動揺を隠せない。

 今のは実力なのかまぐれなのか分からない赤帽子の魔物たちは再びアラタに襲い掛かった。

 援護に入ろうとするトリーシャたちを手で制し、アラタはバルザークに魔力を伝わらせて攻撃に備えた。


 まずはダガーを持った個体が猛スピードで接近する。通常のゴブリンやホブゴブリンとは桁違いの速度だ。

 その疾風の如きスピードから繰り出される一撃をアラタはバルザークで簡単にいなし、左手で相手の顔面を思いきり殴り、そのまま地面に叩き付けた。

 その衝撃でレッドキャップの頭部は地面にめり込み、全身が痙攣する。

 その隙にアラタの背部に回り込んだ個体が斧で狙ってくるが、振りかぶった瞬間にアラタの姿が目の前から掻き消える。

 いつの間にかアラタが後ろにいる事に気が付き、振り返ろうとした瞬間レッドキャップの身体は頭から真っ二つに分かれて地面に横たわった。


「スピードが取り柄なのはお前らだけじゃない。ここで叩き潰す!」


 アラタが啖呵を切ったのを合図にして、他の魔王軍メンバーが一斉に動き出した。

 仲間の二人が瞬殺され最初は動揺していたレッドキャップであったが、仲間意識が強くないゴブリン種はすぐに体勢を立て直す。

 だが、それでも個々の実力が高い魔王軍のメンバーとまともな戦いをすることは出来なかった。

 レッドキャップは最大の長所であるスピードで勝負をするが、全員が反撃に遭い次々に倒されていった。

 トリーシャと戦ったレッドキャップは高速移動術である〝瞬影〟を使用してきたが、トリーシャの速度はその上をいった。


「確かに中々のスピードだけど、やっぱりグリフォンを越えるレベルじゃないわね。その程度じゃ私にかすり傷一つも付けられないわよ!」


 トリーシャは木の幹を足場にして空中を高速で移動し、逆に高速自慢の赤帽子を圧倒する。

 気が付いた時には、小柄な魔物の身体は風を纏った槍によって切り刻まれていた。


「グギャギャギャ!!」


 森の中でアラタたちに一方的にやられていたレッドキャップたちは、後方支援をしているセレーネとセスを視界に収めると二人に向かって突撃を開始した。


「あら、今度はこっちに向かってきたわね」


「我々のように後方から魔術を使う魔闘士は、基本動きが鈍いですからね。そこを狙ってきたのでしょう」


 ゆったりと構える二人とは対照的に高速で襲い掛かる赤帽子は勝利を確信していた。

 だが、ある程度近づいたところで、ある者は突然燃えだし、ある者は地面から生えた黒い槍に串刺しにされていった。

 その炎と闇の魔術のトラップを辛くも抜け出したレッドキャップがセレーネに襲い掛かる。

 手に持ったダガーで彼女に斬りつけようとする寸前で、突然横から飛んできた何かに吹き飛ばされ遠く離れた野太い木の幹に叩き付けられ絶命した。

 レッドキャップを吹き飛ばしたのは、先が棘のようになっている触手――ドラゴンテイルだった。

 セレーネのローブスカートの一部が形状変化し竜の尻尾を模した武器である。

 セレーネの意思により縦横無尽に鞭のようにしなり、敵を叩きつけたり捕縛したりと用途が広い。


 この戦いにおいてゴブリンとオークの連合はレッドキャップのような強力な魔物を動員してはいたが、結果的には魔王軍によって圧倒され全滅したのであった。

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