第17話 ファーストクエスト

 傭兵ギルド『魔王軍』結成の翌朝、アラタたちはギルド協会に集合しギルドの認証プレートが出来上がるのを待っていた。

 その間、貼り出された依頼書に目を通す。ギルドは上から白金、金、銀、銅、鉄とランク付けされており、最初は鉄からスタートする。

 依頼書にも難易度に応じてギルドランクと同様に白金、金、銀、銅、鉄と設定されており、依頼を受けるには依頼書の難易度以上のギルドランクが無ければならない。

 現状、ギルド『魔王軍』は難易度〝鉄〟の依頼しか受けられないということになる。


「なあ、難度〝鉄〟の依頼って薬草採取とかゴブリン退治、それにファルナスの清掃作業とかしかないぞ」


 ロックは依頼書を見ながら辟易している。ドラグも渋い表情をしていた。今まで怪物級の敵と渡り合ってきた彼らからすれば、これらの内容は子どものお使い同然なのである。


「それは仕方がないでしょ? 鉄等級は一般的にはギルド結成間もないクラスだもの。それに鉄級の依頼を数回達成すれば、すぐに銅等級に上がるらしいわよ」


 トリーシャは薬草採取系の依頼書を見ながらロックたちを諭す。


「マスターは、薬草採取よりはゴブリン退治の方がいい?」


「いや……俺はそれなら薬草採取の方がいいなー」


「どうして? 魔物と戦う方が評価も高いし報酬額も少しだけ良いわよ?」


「俺さ、千年前のグラン時代にコロシアムでゴブリンと戦わされていた時期があってさ。もうゴブリン相手はお腹一杯なんだよ。もう、毎日毎日ゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンって感じでね。正直あまり会いたくない」


 アラタのうんざりとした顔を見てトリーシャは苦笑いをする。その時、受付嬢が魔王軍を呼ぶ声が聞こえてきた。

 アラタたちが受付に行くと、そこには亜麻色のセミロングの女性がいた。昨日登録時にいたメアリーよりも少し年上の女性で落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「傭兵ギルド『魔王軍』の皆さん、初めまして。私は、当ギルド協会受付を担当しております、シリカと言います。以後お見知りおきを」


 物腰柔らかく丁寧な挨拶をする彼女にアラタたちは自己紹介をする。シリカの話によると彼女はエトワール時代からリクルートの部下で彼に引き抜かれる形で一緒に、ここファルナス支部にやって来たらしい。

 アラタたちがエトワール支部にやって来た時は休日だったらしく、昨日も休みで会えなかったらしい。


「皆さんと再会できてリクルート支部長が大変喜んでいました。普段はあまり自分の感情を出す人ではないので本当に嬉しかったのだと思います。今後も当支部をよろしくお願いします」


 リクルートの話をしながらにっこりと営業スマイルを見せるシリカを見て、魔王軍の女性陣は何か感じるものがあったようだが、これ以上詮索することはしなかった。

 挨拶を済ませたシリカは、魔王軍人数分の認証プレートを一人一人に手渡し説明を行った。


「この認証プレートはギルド協会に登録したギルドメンバーの証で、小型の魔道具となっています。この小さな金属の板には皆さんそれぞれの個人情報が刻まれていまして、これを使用してギルドに寄せられている依頼の契約を行ったりします。あと、構造は企業秘密なのですが、この認証プレートには依頼を受けている時の皆さんの行動が記録されます。依頼を達成し当ギルド協会に戻られた際には、その認証プレートを一度預からせていただき正当に依頼が行われたかどうかを確認させていただきます」


「なるほど。確かにギルド協会の方が一緒に現場に来て確認とかはしていられませんしね」


「ええ。以前このプレートが出来る前は、不当な方法で依頼達成を試みるギルドが多くいたらしいです。そのためにこの認証プレートが採用されて、不正件数は現在ほとんどありません」


 会話中アラタは少し渋い表情をしており、思い切ってシリカに尋ねてみた。


「シリカさん、そのプレートなんですけど依頼を受けて魔物と戦う時とかもずっと身に付けていないといけませんか? 俺の魔力だと、こういう物は壊れてしまうんです」


「その事でしたら支部長から事情を伺っています。アラタさんの認証プレートに関しては形だけ同じであるただの金属の板になっています。ですので、アラタさんが依頼を受ける際にはギルドメンバーの同行が必須となりますのでよろしくお願いします」


 その話を聞いてアラタは安堵し、そんな彼の様子を見ていたシリカはくすくす笑っていた。

 お仕事モードの営業スマイルとは違う、突然の素の彼女の笑顔にアラタが驚いていると、それに気が付いたシリカが慌てて謝罪した。


「すみません、突然笑ってしまったりして。実はこう見えても、私、結構緊張していたんです。現在世間で噂されている魔王軍の方々の対応を頼まれたものですから。でも、支部長が言っていたように皆さん朗らかな方々だったので、少し気が抜けて何故か笑ってしまいました」


「確かに世間では魔王軍と言ったら極悪非道の集団っていう評価ですからね。見てもらったように実際にはこんな感じなんで、あんまり身構えずに接してもらえれば俺たちもありがたいです」


「分かりました。お言葉に甘えさせていただきますね。……では、どのような依頼をお受けになりますか? 先程皆さんずっと依頼書の所で議論していたのでお決まりだと思うのですが」


「皆で色々話をして、最初は無難に薬草採取の依頼を受けようかなと思います」


「薬草採取、ですね。承りました。こちらの依頼では当ギルド協会で用意したバッグ型の魔道具に薬草を入れていただきます。必要な量に達するとバッグの魔石が光ります。そうしたら当ギルド協会に薬草を持ち帰っていただければ依頼達成となります。初の依頼頑張ってください」


「ありがとうございます」


 こうして傭兵ギルド『魔王軍』は薬草採取のため、ファルナスの近くにある山林地帯へと出発した。

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