第16話 呪われた家の解呪の方法

「…………皆、説明聞いてた? ここに住んだら確実に呪われるぞ。きっと二組目の人たちも取り込まれてるよ! そんな感じがする!」


「さすが呪われ者のプロですね。呪いの効果を本能で見抜くとは……さすがです」


「嫌われ者みたいに言わないで!? いや、褒められても嬉しくないから!」


「アラタちゃん、落ち着いて。確かにこの家は呪われているかもしれないけど、今まで見てきた物件の中でも断トツで魅力的なお家なのよ」


「マスター、それに私たちならゴーストなんて敵じゃないわ」


「アラタ様、それでは衝撃の事実を一つお話します。アラタ様は幽霊が怖いようですが……あなた五百年間もその幽霊の状態で生活していたんですよ。私からしたら、今のあなたは終始ギャグを言っているようにしか見えませんよ」


 そう、ムトウ・アラタは千年前、前世であるグランが破壊神との戦いで死亡した後、死後の空間である〝ユグドラシルの枝〟の中で豊穣の女神アンネローゼ……つまりアンジェと五百年一緒に過ごしていた。

 その間彼は魂だけの存在、つまり彼が現在恐れている幽霊の状態であったと言えるのだ。


「あっ、そう言えばそうっすね……ははは、何だ……俺、こんなに騒いでバカみたい」


「マスターの方はこれで大丈夫みたいね。そう言えば、この家って値段はどれくらいかかるの?」


「この家は、住居者が立て続けに短期間で亡くなったといういわくつきの物件で町中の人に知られていまして買い手が見つからなかったんです。それなので、今は百万カストで売りに出されています」


「買います!」 


 ノコが百万カストと言った瞬間に、アンジェは購入の意思を見せていた。そのあまりの早さにアラタは反応が遅れ、この家の購入に対し口を挟むタイミングを失い、あれよあれよという間に購入契約が成立し、この呪われた家は彼らの持ち家となった。


「ご購入ありがとうございます。きっと皆さんなら大丈夫だと思います! 多分! 健康には注意してくださいね! それでは!」


 呪われた家をアラタたちに売ったノコはスキップをしながら帰って行った。

 残されたアラタたちは再び家の中を散策し、今後必要な家具類をリストアップするとセスたちとの待ち合わせ場所に向かうのであった。


「魔王様、この数時間の間に随分やつれましたね」


「……色々あったんだよ。一年間の修行話より濃いエピソードがこの数時間の間に起こったんだよ」


 セスたちが案内したファルナスの人気酒場『ファミリア』にて、アラタは一軒家購入のいきさつをセスたちに話した。

 魔王軍の男性陣は、夜の生活に執着する魔王軍の女性陣の逞しさに改めて恐怖を感じ、一年前にやっと呪いから解放された魔王が再び呪われるハメになった事実に同情していた。

 だが、それを口に出せば女性陣が黙ってはいないので彼らは何も言えなかった。


「俺、酒を飲もうかな……」


「魔王様がお酒ですか? 珍しいですね、以前の旅では頑なに断っていたのに」


「そりゃあ、日本では飲酒は二十歳からだからね。だから断ってた。でもソルシエルでは十五歳で成人してお酒も飲めるようになるし。いい機会だから、飲んでみる! うん、そうだ、今日は飲むぞ!」


「アラタ、このファルナスは港から新鮮な肉やら魚やらが運ばれてくるみたいでさ。だから町中で色んな食材を扱った店があるんだよ。特にこの酒場は酒と肉料理が美味いってことで評判らしいぜ」


「よーし! 肉料理もたくさん頼もう! このソーセージとハムとチーズの三種盛りとか美味しそうじゃないか」


 アラタたちは美味しい肉料理と酒に舌鼓を打ち、一年間の修行中の話で盛り上がった。ただ、明日から傭兵ギルドとして活動を開始するということで、今夜は早めのお開きになった。

 ちなみにフランはドラグが借りたペット可の部屋で彼と一緒に生活することになり、仲良く帰って行った。


 アラタとアンジェ、トリーシャ、セレーネの四人は、ほろ酔い気分で先程購入した家に帰宅した。

 その中でアラタだけは結構酒が入っており、完全に酔っぱらっていた。


「アラタ様、お水です。どうぞ」


「ありがとう、アンジェ。いただきます! んぐっ、んぐっ……っぷはぁー、んまい!」


「アラタちゃん、元気一杯ね」


「マスターって酔うとこんな感じになるのね」


 普段よりもテンションが高いアラタをもの珍しそうに見ていると、彼は階段に向かってずんずん進んで行く。


「アラタ様、お休みになられますか?」


「へ? 寝る? 何で? 今夜は朝までコースだよ? 早く寝室に行こう! 朝になっちゃうよ」


「めちゃくちゃやる気になってる! マスターのあんな姿初めて見たわ」


「驚いたわね。基本最初は受け身で途中から調子が上がってくるけれど、お酒が入ると最初からフルスロットルみたいねぇ~」


「私もあんなに目がギラついているアラタ様は初めて見ました。危険かもしれないので二人には説明しておいた方が良いかもしれませんね」


 アンジェの意味深な言葉にセレーネとトリーシャが反応する。


「何よアンジェ、危険ってどういうこと?」


「アラタ様なのですが、この一年の修行で魔力が肉体にかなり馴染むようになりまして……その結果、以前とは段違いに夜の方がさらに旺盛になりました」


「旺盛って……以前だってアラタちゃん元気だったわよ」


「あの頃と比較して少なくても二倍は元気です。おまけに今はお酒が入っていて自制がきかないでしょう。ですから、今夜はどういう状況になるか私でも想像がつきません。頑張りましょう」


 セレーネとトリーシャ、そしてアンジェはごくりと喉を鳴らし、アラタを見つめる。

 それから四人はいそいそと寝室に向かって行き、その後女性たちの余裕の無い嬌声は朝まで止むことはなかった。

 この夜、ノコが言っていた以前の二組のオーナーが寝室に姿を現した。現したのだが、獣の如く没頭するアラタたちに気付かれることはなく、そのパワフルな内容に委縮し何をするでもなく彼らはユグドラシルの枝へと還っていった。

 こうして、アラタたちは知らないうちに幽霊問題を解決したのである。彼らがその事実に気が付くのはもう少し後になってからだった。

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