第15話 呪いのベッド

「はい、ここですよ。今までご案内した物件よりも郊外になってしまいますが、見晴らしは良いですし、家の中も広めになっていて過ごしやすいですよ。早速中に入ってみましょう」


 ファルナスの繁華街から離れた、小高い丘に建っている二階建ての一件屋。元々ファミリー層向けに建てられており、大人四人が住むには十分な広さがあった。

 一階には浴室、キッチン、リビングというオーソドックスな作りで中古物件のわりには傷などもなく、まるで新築のようである。

 キッチン周りは十分なスペースがあり、料理がしやすい環境が整っている。立地も郊外から離れており、アンジェたちが理想とする条件が整っていた。


「素晴らしい物件ですね。あと残っているのは……」


「アンジェリカさん、皆さん、寝室は二階にありますよ。今から案内しますので付いてきてください」


 ノコはニヤリと自信ありげに笑うとアラタたちを先導し、二階の寝室へと案内した。二階の構造はシンプルだった。

 巨大な寝室が二階の間取りのほとんどを占拠し、その他小さめの部屋が二つあるだけだった。


「ひろ……! これはもはや寝室っていうかリビングだな。それにこんな巨大なベッドは今まで見たことがないぞ。何人寝れるの、これ?」


「大人十人は一緒に寝れます。でも、このベッドのすごいところはそんな部分ではないのです」


「というと?」


「このベッドは、我らがギルド『オーペホウセ』の技術の粋を結集して作成したもので、高品質と言われるシルキウッドを材料としており、このベッドの上でどんなに激しい運動をしてもビクともしません。さらに! マットレスにもこだわっています! 構造は秘密ですが、寝るもよし、運動するもよしの高評価を得ている一級品です。試しに乗ってみてください」


 ノコが勧めるまま四人がマットレスに乗ると適度な反発力が彼らの触感を刺激していた。


「うわぁ~! すごい! ちょっと触っただけなのに気持ちいい、これならぐっすり眠れそう」


「ホントだわ~、それに身体を動かしても全然軋まないし、ノコちゃんの言う通りにとても頑丈みたい」


 トリーシャとセレーネの絶賛の声にノコは満足そうな表情を見せ、解説を付け加える。


「そうでしょう、そうでしょう。それにこの家は基礎設計段階から、建物全体の強度を重視しているので、こんな巨大なベッドが置いてあっても床の強度は全く問題ないんですよ~。ですから、アンジェリカさんの言う通りに、どんなにギシアンしても大丈夫なんです!」


「この人、さっきまで〝運動〟って言葉で内容をぼかして言っていたのに、とうとうギシアンって言っちゃったよ。……やっぱり、そういうことを目的とした部屋なんですね。それにしてもこのベッドは大きすぎませんか?」


「ええ、これはハーレムな人向けのベッドなので」


「ハーレムて!」


 ノコの返答にアラタは吹き出した。その隣でアンジェが真剣な表情で質問する。


「それはまた随分とコアな層向けのベッドですね。今まで使用された方はいらっしゃるのですか?」


 アンジェの言葉を聞いて、ノコの表情が暗くなる。さきほどまでは饒舌だった説明もたどたどしいものになっていった。


「実はですね。それに関して今から説明しようと思ったのですが……。この家を購入され、今皆さんが乗っているベッドを使用した方は今まで二組ありまして、そのいずれも……腹上死されていまして」


「ふくじょ……! なんてこった! 皆、とりあえずこのベッドから降りて――」


 そう言いつつベッドから降りたのはアラタ一人のみであり、女性陣はベッド上でノコの説明を熱心に聞いていた。


「君たち、どうして降りないの?」


「しー! マスターは少し黙ってて、今大切な部分なの!」


「………………」


「おほんっ! 話を続けますね。最初に購入された方は、とある傭兵ギルドで活躍されていた四十代の魔闘士で、お付き合いされていた五人の女性と一緒に住まわれていました。購入から三日後、その方は亡くなられました。なんでも、購入したその日からずっと飲まず食わずで行為に及んでいて、皆さん亡くなられたということです」


「マジか」


 アラタは青ざめていたが、女性陣は興味津々の姿勢を崩さなかった。


「二組目のオーナーは、これまた有名な傭兵ギルドの二十代の魔闘士でした。彼もまた、六名の女性とここで暮らし始め、二日後に亡くなられました」


「……生存日数……短くなってる」


 アラタの顔はますます青くなっていった。


「その方も、ここに引っ越してきて荷解きもそっちのけで女性たちとおっぱじめたそうです」


「それも、やはり休憩なしだったのですか?」


「ええ。そして、この時無事だった女性の証言によれば、行為中彼女たちは幻覚を見て、何故かそれに対抗するように行為にのめり込んでいったということです」


「幻覚? それはどんなものだったのかしら?」


「なんでも、四十代ぐらいの筋骨隆々の男性が五人の女性とハッスルしていたとか。その特徴が最初に購入した男性や女性たちと一致していまして……」


「よし! 別の物件にしよう! このベッド、確実に呪われてます! 皆、早く行こう!」


 アラタが部屋から出て行こうとするも、女性陣は動かなかった。

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