第246話 石像の悪魔再び①

 その頃、ロック達はガーゴイルをほふった直後に出現した雌ダッゴンによる執拗な攻撃から必死で逃げていた。

 雌ダッゴンは、自分の周囲で動くもの全てを8本の足で思い切り攻撃していた。


「何というめちゃくちゃな攻撃だ。それにとてつもない殺気……全力で我々を殺しに来ている!」


「そりゃあ、そうでしょう。だって、自分の夫をボコボコにされたのよ!? 逆の立場だったら、私だって激おこになるわ!」


 同じ性別だからか、トリーシャは雌ダッゴンの怒りに対して理解を示していた。一方、ドラグは怒れる雌ダッゴンの猛攻を見て、女性を怒らせるなような事はプライベートでは絶対しないようにしようと密かに誓う。

 怒りに任せた雌ダッゴンの8本足の攻撃は、軌道は単純で回避に難はなかったが1発の威力は凄まじく、その気迫も相まってドラグ達を圧倒していた。

 その中で、ガーゴイル戦で全力を出し切ったロックの疲労は強く、回避への反応が遅れ始めていた。


「ロック、ここは俺達が何とかする! お前は、シャーリー達の所まで下がれ! あの怒りの足を食らったら、下手すりゃ一撃でお陀仏だ!」


「くっ……けどよ」

 

「ああ、もう! ロック! そんな状態でうろちょろされたら、危なっかしくてしょうがないのよ! あんたはもう既に自分のやるべき事をやったんだから、後は私達に任せてアンジェの近くにいなさい!」


「……分かった。すまねぇなトリーシャ、皆、それじゃ俺はお言葉に甘えさせてもらうぜ」


 ジャックの言葉に食い下がるロックだが、トリーシャに諭され自分が足手まといになりかねないと分かると素直に後方に下がり始める。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 この場から1人の獲物が逃げようとしている事を察した雌ダッゴンは、足の吸盤付近にいくつもの魔法陣を出現させる。

 そして、雄ダッゴンがしていたのと同じように、魔法陣から大量の〝ハイドロップ〟を弾幕のように射出した。


「今度はこんな大規模な魔術を使ってくるなんて……これが魔獣……もし、こんな怪物が町中で暴れたりでもしたら、一瞬で周囲は壊滅だわ」


 コーデリアは王都アストライアで暴れるダッゴンの姿を連想し、その惨状に身を震わせる。

 猛スピードで次々に放たれる巨大な水の塊は、水面に当たると同時に爆発し激しい水しぶきを周囲に発生させる。

 退避中のロックも、その水の弾幕で思うように進むことが出来ずにいた。そして、自分の付近にハイドロップが集中して放たれ、水面に当たると同時に巨大な水のカーテンを発生させた。

 その時、ロックがふとカーテンに視線を向けると、その向こう側に人影があるのを発見する。

 疲労で思考が鈍っていたロックは、そこに人影がある状況に違和感を抱くのに少し時間がかかった。


「ちょっと……待てよ……トリーシャ達はダッゴンの方にいる。それじゃあ、この人影は一体……誰?」


「ロック! 早くそこから離れて!!」


 アンジェがロックに退避を促した直後、水布の向こう側から灰色の魔力で構成された矢がロック目がけて何発も放たれた。

 反応が遅れたロックは回避が間に合わず、両腕を交差させて防御に切り替える。灰色の矢は、ほぼ全てがロックに直撃しそのダメージでロックは水面に真っ逆さまに落ちて行った。

 

「ロック!」


 湖に落ちる寸前で、アンジェが湖面をスライディングしながらロックを掴まえる。魔力が消耗していたロックは、ローブの防御力が低下している状態で不意打ちを受けた。

 さらに先のガーゴイルとの戦いで受けた傷も完全には癒えておらず、蓄積したダメージは彼を危険な状態へと追いやっていた。


「う……ぐ……!」

 

「ヒール! ロック、目を覚まして!」


 アンジェは、力なく横たわるロックに対し即座に治癒魔術を開始する。そんな彼女達を高みからあざけ笑う者がいた。

 全身が石のような物質で構成された悪魔の如き外見をした存在――ガーゴイル。


「あれだけの攻撃を受けて生きているなんて、大した生命力ですね」


 うすら笑いをしながら、湖面に降りてきた敵をアンジェは睨み付ける。それを見て、ガーゴイルは不快な笑みをますます歪めていった。


「さすがの俺も、あの連撃を食らった時にはヤバいと思ったよ。でも、ダッゴンを回復させたウェパルの治癒術が俺の方にも流れてきてね。おかげさまでダメージはすっかり治ったというわけだ」


 その言葉通り、ガーゴイルの身体には傷跡がなく完全に修復されていた。無傷の身体を見せびらかすようにしながら、アンジェ達に向かって湖面の上をゆっくり移動してくる。

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