第245話 ウェパルの余裕

(段々と分かってきたぞ。奴が1回の魔術攻撃に使うのは2本の足のみ。その直後次の2本足で攻撃し、また別の足で攻撃を仕掛けている。合計8本の足で攻撃と準備をローテーションして絶えず魔術を放っているのか。――それならばいけるかもしれない! パターンさえ分かればいくらでも対応策はある!)


「予想通りなら、次は……そこだっ!」


 セスはファイアーボール数発分を、雄ダッゴンが術式構成中の足に向けて放つ。それは、術式が完成し足から放たれた直後のハイドロップと衝突し爆発、その衝撃に呑まれ魔術を放ったばかりの足は吹き飛んだ。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 何が起きたのか理解できないダッゴンは、突然の痛みに驚きの声を上げる。それを見たセスは、この不利な状況下で小さな勝機を見出していた。


「いけるっ! これなら私だけでもダッゴンを抑えられる! 後は……皆頼むぞ!」




「くふふふふふふふ! その水の拘束は簡単には解けませんことよ! 無駄な抵抗は止めて早くあたくしの下僕になっては如何いかがかしら?」


 無抵抗な状態でウェパルに散々水の鞭で叩かれ、スヴェンのローブは損傷が激しくなっていった。


「……分からない奴だな。こんな事をする奴になびくわけがねーだろ! 頭おかしいんじゃないのか!?」


「ふーん……大した精神力と頑丈な身体ですわね。普通、これだけ痛めつけられれば心が折れて、あたくしをご主人様と呼ぶようになるのですが……でも、これはこれで落とし甲斐がありますわぁ。その負けん気の強い顔をあたくしへの服従心で満たした時を想像するとゾクゾクします」


 両手で自身を抱きしめながら1人で勝手に興奮するウェパルを見て、スヴェンは心底ドン引きしていた。


「シャドーボール!」


 その時、闇の球体が飛来しスヴェンを拘束していた水のツタを破壊した。身体が自由になったスヴェンは急いでウェパルから距離を取り、大剣を構える。

 彼のもとにセレーネとエルダーが合流し、それぞれ魔法陣を展開、攻撃姿勢を取っていた。


「すまないセレーネさん、おかげで助かったぜ」


「スヴェンちゃん、大丈夫? かなりの時間鞭でぶたれていたけれど……何かに目覚めなかった?」


「いや……大丈夫……俺、Mじゃないんで……」


 スヴェンは自分の返答に対し、セレーネが少し残念そうに「そう……」と呟くのを見逃さなかった。

 それにより魔王軍の女性陣は皆個性が強い者ばかりだと感じたスヴェンは、コーデリアが一般常識に富んだ人物で良かったと心底思うのであった。

 

「お二人さん、気を緩めすぎだよ。敵はあんな華奢なお嬢さんだけど、十司祭の1人なんだから。まだまだ本気は出していないはずだよ。おまけにこんな水上じゃ、水系魔術を使うあちらさんにとっちゃ実力以上の力を発揮できる最高の環境なんだ。一発でワシらを全滅させるような奥の手を持っているとみて間違いない」


 やや緊張感が薄れていたスヴェンとセレーネをエルダーがたしなめる。


「そうね、なら大規模の魔術を使えないように連続攻撃を繰り返すしかないわね」


「――上等だ。俺が接近戦を仕掛けるから、2人は援護を頼む」


「分かったわ、私も魔術の他にもローブを変化させた攻撃で援護するわ」


 スヴェン、セレーネ、エルダーの3人はスヴェンを先頭にした陣形を組み、未だ余裕の笑みを見せているウェパルに向かって行った。

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