第234話 ロックVSガーゴイル①

 若き魔闘士達の頼もしい後ろ姿を見て、バルザスは感動していた。旅が始まった頃は色々と未熟で途中で瓦解してもおかしくなかった魔王軍が今や強固な信頼で結ばれている。

 さらに自分の秘密を知った時も驚きこそすれ、拒絶する事はしなかった。「もっとちゃんとこの子らを信じて真実を伝えていたら」とバルザスが自問する中、彼の肩に手を置く人物がいた。


「本当に良いパーティーだな、この魔王軍は。バルザス……お前が育てた若者達の戦いを最期までちゃんと見ておけ。後の事はワシが受け持つ」


「ありがとう、〝ラナン〟……いや、今はエルダーだったな」


「ラナン……か、懐かしい響きだ。黒竜のお嬢さんも当時のワシは知らんし、もうその名で呼ばれる事もなくなるのだな……少しだけ、ほんの少しだけ寂しいな」

   

 エルダーの言葉の最後の方は、戦闘態勢が整い喧騒に包まれた現場の声にかき消されバルザスの耳には入らなかった。それでも何となく彼の心情を理解する事は出来た。


「すまないな、ラナン」


 その時、バルザスの眼差しの先でセスが全員に戦闘開始の激を飛ばした。


「では皆準備はいいな! 行くぞ!!」


「「「「「応っ!!」」」」」


 全員がそれぞれの攻撃対象に向かってフォーメーションを組んで移動を開始した。ロックは、前方で腕を組んで水面に浮かんでいるガーゴイル目指して突っ込んでいく。


「ロック! そいつには私も一発くれなきゃ気が治まらないわ! 私の分もちゃんと残しておいてよ!」


「うっせーな、トリーシャ! そんな約束出来ないっつーの! そんなにやりたきゃ、とっととその半魚人どもをぶっ倒しな!」


 ロックとトリーシャの獲物の取り合いのやり取りが終わる中、ロックは目標の眼前で立ち止まった。

 互いに向けられる殺意の眼差しは空中でぶつかり火花を散らしているかのようだ。


「バルザスについて色々教えてくれてありがとう。その礼と言っちゃ何だが、今からその石っころな身体をボコボコにして水切りの材料にしてやるぜ!」


「舐められたものだな。この俺の相手が貴様のような青二才1人とはな。俺は十司祭ではないが、何度もより強いボディへとコアを移した戦闘用の人工生命体ホムンクルス。単純な実力なら連中にも引けを取らん。それを分かっての言葉か、小僧?」


「分かってるさ。お前がこの場に現れた瞬間から、魔力とかプレッシャーでさ。この間戦ったアロケルといい勝負だぜ」


 ロックの言葉を聞いてガーゴイルは明らかに嬉しそうな表情を見せた。


「そうか、お前がアロケルの言っていた人間でありながら獅子王武神流を使うとかいうガキか。くくくっ、あの堅物が珍しく笑っていたぞ『先々面白くなりそうな男を見つけた』とな。ならば、その力ここで俺に見せてみろ! 行くぞっ、小僧!!」


 そう言うや否や、ガーゴイルは巨大な翼を羽ばたかせ全速でロックに突っ込んで来る。その停止状態からの急激なハイスピードへの変化に一瞬驚くが、あくまでもロックは冷静だった。

 前回の戦いで骨の髄まで苦渋を味わった彼の中に油断の二文字はなかった。


「速いっ! けど、このスピードは経験済みだっ!」


 急接近したガーゴイルの正拳突きを片手でいなし、瞬時に反対側の手によるボディブローでカウンターを仕掛ける。

 ロックの右腕がガーゴイルの脇腹を捉えた瞬間、その石像の悪魔は急速で後方に退き攻撃を回避した。


「くそっ、かわされたか! 今のはいいタイミングだと思ったんだけどな」


 ロックが自分の攻撃が不発であった事を残念がる一方で、ガーゴイルは左脇腹を擦りながら冷汗をかいていた。


(こいつ、俺の攻撃に瞬時に対応しやがった! しかも、カウンターまで仕掛けてくるとは。もう少し反応が遅れれば脇腹を的確に打ち抜かれていた)

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