第233話 十司祭ウェパル②

 コーデリアの弁明も虚しく、ディープの姫は声高らかに自らの真の目的をひけらかした。その内容はあまりにも突飛であり聞いていた者達は頭が痛くなる思いだ。

 その中でアンジェはあくまでも冷静に状況を分析していた。


「元々ディープという種族は海底で過ごしており、多種族との文化的な関わりが少なく、知能的にはあまり高くはないようです。ただ、繁殖力だけはずば抜けて高く多種族に自らの種を植え付けたり、逆に種を得ることで自分達の海底都市で繁殖させ、独自の発展を遂げています。彼女は、そんなディープの中でもある程度知性はある方のようですが、ベースがベースなので如何いかんせんアホの子の発想しか出来ないようですね」


「そこのメイドのあなた……聞こえてますわよ! 誰がアホの子ですってー!!」


「あなたです。あなた以外にいますか? そんな馬鹿らしい発想を持った人物がこの場に?」


 ポーカーフェイスでアホの子を煽るメイドに皆驚きながらも、その堂々とした物言いに女性陣は内心カッコいいと思うのであった。

 一方で自分への侮蔑的発言に対し、額に青筋を立て激昂するウェパルは急速に殺意と魔力を高めていく。


「ふ……ふふ……、久しぶりですわ、あたくしをここまでコケにした人は! あなただけは、あたくしが直接バラバラにして差し上げます! 覚悟なさい!!」


「どのみち、自分が目をつけた男性以外は皆殺しにするつもりだったのでしょう? 今更だと思うのですが?」


「いえいえ! 慈悲深いあたくしは、あなた方女性陣にも相応しいスポットをちゃーんと用意してましてよ。ここにいるディープの男達の種をその身に宿すという誉れ高い母体としての役をね!」


 水面から顔を覗かせる30以上の半魚人達がニヤついた笑みと舌なめずりを見せてアピールをしている。

 その光景を目の当たりにして、陸の種族の女性陣全員は本能的な危機感と生理的な嫌悪感を覚えずにはいられなかった。


(((((キモッ!!!!!)))))


 そして、彼女達が不快感を感じたのを皮切りに、この忘却の都市アクアヴェイルにおける戦いが始まった。ディープ達は散開、包囲網を敷きながら舞台に向けて近づいてくる。

 ダッゴンもその巨大な身体を少しずつ舞台に向けて進め始めていた。ウェパルとガーゴイルはその場から動かずに、敵がどのように対応するのか観察している。


「悪いが、あのガーゴイルとかいう奴は俺がもらうぜ。ここまで来た時の移動速度を考えると明らかにスピードタイプだ。俺の獅子王武神流ししおうぶしんりゅうで叩き潰してやる!」


「分かった、ロックお前に任せる。だが深追いはするな、奴は神魔戦争を戦い抜いた実力者だ。少なくとも十司祭クラスの強さを持っているだろう。他の敵を倒したら援軍を送るから、それまで持たせろ。次にディープの軍勢には接近戦メンバーをあてがう。ドラグ、トリーシャ、コーデリア姫、ジャックで対応してくれ。そして、それ以外のメンバーであのダッゴンとかいうデカブツを叩く!」


「ウェパルという十司祭はどうするのですか? 私を直接手に掛けるとか言っていましたが?」


「あの手のタイプは自分からそうそう簡単には動かん。しばらく放っておいて問題ないだろう。アンジェはこの場に留まり、バルザス殿とシャーリーさんを敵の攻撃から守ってくれ」


「了解」


「――と言う感じで勝手に割り振りをしてしまいましたが、豪炎の勇者殿に希望はありますか? このままいくと、あのデカブツ相手になりますが?」


「いや、むしろ助かったぜ。俺は指揮は苦手でな。うちのメンバーも、お前の決めた配置がベストだとさ。……それに、接近戦を得意とする俺をデカブツ側にしたのにも理由があるんだろ?」


「陽動兼火力要員と言ったところですね。あの触手のような足へ攻撃をしつつ本体の足止めをお願いします。これは、ずば抜けた戦闘センスを持つあなたにしか出来ないと考えます」


「分かった。人をやる気にさせるのが上手いな、お前」


「それが魔王軍参謀の仕事ですから」


 セスの指示で各々戦闘配置に着く中、スヴェンは魔王軍参謀の采配に感心していた。スヴェン達はどちらかというと、戦況によって各々判断し行動する事が多いので、彼のような作戦参謀の存在は新鮮だったのだ。そして、この強固な布陣で戦いに挑む状況に胸躍る感覚を覚えていた。

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