第220話 モテキ?
アラタがアンジェの指し示す方向に目を向けると、そこには1体の石像が立っている。近づいて見てみるとそれはネグリジェのような薄生地の服に身を包んだ女性の像であった。
髪は腰まで届くロングヘアーで少し切れ長の目をしており、耳は少しとんがっていてエルフを連想させる。
やや細身の身体ながら、その胸部は不釣り合いなほどに豊かでセレーネにせまる勢いだ。控えめに言っても美しく、そして――。
「どうですか、アラタ様。この石像エロくないですか?」
メイドからの突然の振りに対し、アラタは石像をじっくり眺めて考える。
「そうだなー。うーん……これは実に……エロい!」
「そうでしょう、そうでしょう、いかにもアラタ様好みでしょう」
やたら機嫌がいいアンジェを少し不思議に思いながらも、アラタは背後から強烈な殺気を感じ振り返った。
そこにはふくれっ面をしたトリーシャといつもの笑顔を見せながらもなぜか魔力を高め始めているセレーネの姿があった。
(ひいい! まずい! これ以上エロい石像に
「しかしあれだねぇ、一体これは何の石像なのかねー?」
冷汗をかきながら、白々しく話題を変える魔王。とにもかくにも殺意に満ちた2人の注意を逸らす事が先決なのだ。だが、この選択がさらに自分を追い込む事になるのを彼はまだ知らない。
「これは豊穣の女神アンネローゼを模した石像です」
「ええっ!? この人がアンネローゼ!? じゃあ、グランは死んだ後、この人と500年一緒にいたの?」
「そういう事になりますね」
アンジェの返答後、全員の視線が女神像に集中する。その時全員が同じ事を思っていた。
(こんなエロい姿の女神と500年も一緒にいたら絶対何かしらあっただろ。男女関係的な何かが!)
皆の表情からそんな考えを察したのか、ウンディーネが彼らの疑問に答える。それは、ますますアラタの首を絞める事になる。
「そりゃ、ありましたよ。若い男女でしたから。当時、私達も色々気を遣いましたねー」
「…………………………」
重い沈黙がしばらく続いた。数世代前の前世での話のため、アラタ自身には当然見覚えはない。だが、そのような事は知った事かとトリーシャとセレーネはますます機嫌が悪くなっていた。
「あ、あの……トリーシャさん? セレーネさん? ほら、これ前世の話であって直接俺がやった事じゃないんだよ? そこまで怒る事なくない?」
「ううー! 分かるけど、マスターの言う事は最もだと思うけど、やっぱりすごく悔しい! こんな綺麗な人と500年も一緒だったんでしょ? どうあがいても、かないっこないって思ったら、悔しくて……」
「私もトリーシャちゃんと同じ気持ちよ。あの戦いの後、グランがそんな事になっていたなんて知らなくて、とても悔しいわ。それに……その、アンネローゼ本人は今どこにいるのかしら? 今もユグドラシルの枝でグランの転生者であるアラタちゃんを見守っているの? もしかしたら、そのうち姿を現すのかしら?」
「そうですね。それに関してはこの解呪の儀が無事に終わればお話ししようと思います。ただ、今言えるのは彼女はあなた方にとって最大の味方であるという事です」
ウンディーネの言葉にこの場にいる誰もが息を呑む。豊穣の女神アンネローゼ、神の1柱の所在が間もなく明かされる。
先程までの賑やかであった雰囲気が少しずつ緊張感を含んだものへと変わっていく。それは、これから行われる儀式開始の合図だと誰もが感じた。
すると、儀式の中心人物であるアラタがすたすたと舞台の中央へと歩き出した。
「ウンディーネ! イフリート! シルフ! ノーム! 面子は揃った事だし、そろそろ解呪の儀を始めよう! よろしく頼む!」
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