第219話 魔王と女神様
「うあっ!? なんか出た! ついに俺に光線技が追加されたのか!?」
アラタは額に指を添えて、某正義の宇宙人の光線技を表現して見せご満悦だったが、ウンディーネは攻撃技ではないと補足する。
「……うん、知ってた」
あからさまに落胆する魔王であったが、その時地面が大きく揺れてそれどころではなくなる。いつの間にか額から出た光も消えていた。
「何? 地震? 皆、水の中に落ちないように気を付けて!」
コーデリアが注意喚起を促していると、彼らの眼前で驚く現象が発生する。湖の中から巨大な構造物がせり出したのである。
数分間にわたって地震は続き、その間に構造物は少しずつその姿を太陽の下に現せていく。
そして地震が治まった後、湖面に巨大な舞台が出現していた。舞台の周囲には等間隔で4つの円形の祭壇が設置されており、それぞれ赤、青、緑、黄の淡い光を灯している。
「あれは一体――?」
「あれが、解呪の儀を執り行う舞台です。そもそもアクアヴェイルは、あの舞台を中心として造られた都市なのです」
ウンディーネが腕をかざすと、舞台までの水面に光の道が形成され、彼女の促しに応じ、その道を歩いて行く。道すがらウンディーネは、アクアヴェイルについての説明を続けた。
「話は神魔戦争終結直後の事、死亡した魔王グランの魂は〝ユグドラシルの枝〟へ吸収され、他の生命と同様に世界樹ユグドラシルへと還るところでした。ですが、そこでグランはある方と出会ったのです」
「それって誰と――?」
「豊穣の女神アンネローゼ様です」
「なっ!!」
豊穣の女神の名に全員が驚く。特にルークから転生時の話を聞いていたアラタは、前世で彼女と会っていた事実に一層驚いていた。
「魔王グランに施された破壊の神の呪い。それを解くために彼女はグランの前に姿を現しました。ベルゼルファーの妹として、危険な目に遭う可能性があったにも関わらず」
「………………」
「ですが、女神のそんな心配は
「ご、500年!? そんな長い間呪いを解こうとしてたの?」
「ええ、そうです。でも、今日あなたに呪いが受け継がれているように成功しませんでした。そして、そうしているうちにベルゼルファーの再生が始まり、グランをユグドラシルの枝に留めてく事が出来なくなりました。もし、そのままであれば復活したベルゼルファーによって、真っ先に魂を破壊されてしまう恐れがあったから。それで、彼の魂を守るためアンネローゼ様は我々精霊とご自分の力を結集して、グランの魂を地球へと送ったのです」
「そんないきさつがあったなんて知らなかった」
衝撃の事実に全員が黙りこんでしまう。そして、ウンディーネはさらに事の成り行きを話した。
「その後、アンネローゼ様と私達精霊は〝解呪の儀〟に備える事にしました。500年の試行錯誤で呪いを解くには、肉体のある状態で魂にこびり付いた呪いの術式を、膨大な魔力で切除する必要があるという結論に至りました。そこで、豊穣の女神を信仰する人々に啓示を与え、この舞台を造ってもらい、その後アクアヴェイルが誕生しました。そして、長い時間をかけてこの舞台と祭壇に高密度のマナが集まるようにしたのです。魔王乱立時代の戦でアクアヴェイルは滅びましたが、彼らは我々との契約を守り祭壇を隠してくれました。そして、4大精霊の契約者に反応して舞台は復活し、準備は整ったのです。ここまでは分かりましたか?」
ウンディーネに対しアラタは頷く。そして、彼らが舞台に到着するとアラタの紋章が再び光り出し、3か所の祭壇から炎と風、砂嵐が発生し炎の精霊イフリート、風の精霊シルフ、大地の精霊ノームが姿を現した。
「皆、久しぶりだな。ノーム、シェスタでは助けてくれてありがとう。おかげでここまで来れたよ」
「なに、『ノームのゆりかご』の親子を無事に逃がしてくれた礼だ。気にするな」
「久しぶりだな。あれから何ヶ月も経ったが良い顔をするようになった」
「ありがとう、イフリート。また会えて嬉しいよ」
「それは何でも言いすぎじゃない、イフリート? あーしからすれば、この間の抜けた顔は何にも変わってないわよ?」
「悪かったな、シルフ。いい機会だから言っておくけどな、お前のそのコギャルファッション。所々年代がバラバラで滅茶苦茶だからな! そのままだと、エセコギャルだから、そこんとこよろしく!」
「えっ!? うそっ!? 一体どこらへんが――?」
アラタが慌てふためくシルフを無視していると、アンジェが声をかけてきた。
「アラタ様、あれを見てください!」
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